関心や期待が高まる「フェムテック」、利用実態は不明
東京大学は8月1日、健康管理のためのIoT/アプリの利用実態について、働く日本人女性1万人を対象としたインターネット調査を実施し、健康問題を改善するためのIoT/アプリなどのデジタルヘルス機器の普及が進んでいないことが示されたと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科の齋藤英子准教授、聖路加国際大学大学院看護学研究科の大田えりか教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR Public Health & Surveillance」に掲載されている。
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これまでに、IoT/アプリの利用が人々の健康行動を促し、メタボリックシンドロームなどを改善する効果があることはわかっていたが、現役世代の働く女性によるIoT/アプリの利用と女性特有の健康問題との関連を検証した研究はなかった。また、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決することを試みるフェムテックについて、国内でも徐々に関心や期待が高まっているが、その利用実態はわかっていなかった。
1万人を調査、78.5%は健康管理のためのIoT/アプリ利用経験なし
そこで研究グループは、働く日本人女性による健康づくりを目的としたIoT/アプリの利用状況と女性特有の健康問題の実態に関する包括的な調査を行った。その結果、1万人の働く女性のうち、健康管理のためにIoT/アプリを利用している人は1万人中1,455人(14.6%)、過去に利用していた人は695人(7.0%)、利用経験がない人は7,850人(78.5%)で、健康管理のためにIoT/アプリを利用している女性が少ないことがわかった。1万人の働く女性のうち、働き盛り世代の女性は定期的な運動習慣がなく、一部の妊婦や運動習慣のある女性はIoT/アプリを積極的に利用していたが、多くの女性はIoT/アプリを利用していないこともわかった。また、健康目的で利用されるIoT/アプリに関して、最も人気のあるデバイスはスマートフォン、スマートウォッチ、PCの3つだった。
27.6%が月経関連症状を訴えるも、月経関連症状改善のためのIoT/アプリ利用は17.1%
1万人の働く女性のうち、認識された女性の健康問題では、頭痛や片頭痛が2,461人(24.6%)と最も多く、次いで月経関連の症状や疾患2,130人(21.3%)が続いた。1,455人の現在のIoT/アプリ利用者の中で、こういった健康問題に対するIoT/アプリの利用目的を調べると、やせ・肥満・むくみ・ダイエットや栄養障害を改善するためにIoT/アプリを利用する女性は405人(27.8%)と最も多く、実際にやせ・肥満・むくみ・ダイエットや栄養障害を抱える女性は249人(17.1%)だった。それとは逆に、現在IoT/アプリを利用している女性のうち、月経関連の症状や疾患を抱えている人は401人(27.6%)、PMS(月経前症候群)は356人(24.5%)がいる一方で、月経関連の症状や疾病改善のためにIoT/アプリを利用している人は249人(17.1%)、PMSは173人(11.9%)だった。研究により、女性特有の健康問題の認識とIoT/アプリの利用目的との間に乖離が存在することが明らかになった。
普及しない背景に、認知度の低さや薬機法などの問題
IoT/アプリの利用が進んでいない理由として、日本の女性向けに特化した適切なIoT/アプリが開発されていないこと、またあったとしても広く知られていないという点がある。加えて、女性の健康をサポートするフェムテック機器が開発されたとしても、その機能を表示するためには、医療機器として「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の承認を受ける必要があるという点も挙げられる。一方、IoT/アプリの利用においては、疾病や妊娠などの個人情報を職場でどこまで開示するかというデータプライバシーの問題も指摘されており、IoT/アプリにおけるプライバシー保護の枠組みを整備していくことが求められる。「今後、働く女性の健康ニーズに対応したデジタルヘルス機器の開発と利用が推進されることで、さまざまな世代の女性にとって働きやすい環境整備が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・京大学大学院新領域創成科学研究科 記者発表