JAK阻害剤、生体内で治療効果に関与の細胞シグナル経路は未解明
東京医科歯科大学は7月31日、関節リウマチの治療薬であるJAK阻害剤の主な標的の一つが線維芽細胞のオンコスタチンM(OSM)シグナル経路であることをつきとめたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所免疫制御学分野の小松紀子教授、東京大学大学院医学系研究科免疫学の高柳広教授、慶應義塾大学、埼玉医科大学、東京大学医学部付属病院らの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration」にオンライン掲載されている。
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関節リウマチは、日本国内で60~70万人が罹患する、最も罹患率の高い自己免疫疾患の1つである。関節の炎症と骨破壊を主な症状とし、遺伝的要因と環境的要因が複合的に絡み合って発症すると考えられているが、病態形成のメカニズムは不明な点が多い。関節リウマチの治療には炎症性サイトカインであるIL-6やTNFをブロックする生物学的製剤が有効であり、最近JAK阻害剤が生物学的製剤と同等レベルの治療効果をもつ薬剤として注目を集めているが、治療抵抗性の症例や副作用も発生することからより良い治療法の確立が望まれている。
JAK-STATはさまざまな免疫細胞や線維芽細胞において種々のサイトカインシグナル経路の活性化に関与しているため、JAK阻害剤は免疫抑制作用により帯状疱疹やがんなどの副作用を伴うことも報告されており、治療効果を発揮する標的を明らかにすることは、病態解明のみならず、副作用の少ない治療法の開発につながる可能性があると考えられる。しかしながら、JAK阻害剤が生体レベルで、どの細胞のどのシグナルを標的として治療効果を発揮するか、明らかになっていなかった。
炎症滑膜でマクロファージ・線維芽細胞のOSM経路が活性化、JAK阻害剤により抑制
研究グループは関節リウマチの動物モデルを使用して、関節炎を誘導したマウスの炎症滑膜のシングルセル解析を行い、JAK阻害剤の投与の有無で、炎症滑膜に存在する免疫細胞や線維芽細胞においてどのような遺伝子発現の変動があるか調べた。その結果、関節炎環境下では線維芽細胞とマクロファージの細胞間コミュニケーションが強くなり、JAK阻害剤で抑制されることがわかった。JAK-STATシグナル経路を活用するサイトカインとその受容体の発現を網羅的に調べたところ、マクロファージがOSMを発現しており、線維芽細胞がOSMの受容体を高く発現していることを見出した。
ヒト関節リウマチ患者の炎症滑膜のシングルセル解析においても、マクロファージにおけるOSM発現と線維芽細胞のOSM受容体の発現が高いことが認められた。JAK阻害剤によってどの細胞の、どのシグナル経路が抑制されるか検討したところ、線維芽細胞のOSMシグナル経路が最も強く抑制され、続いてマクロファージのIL-6シグナル経路の抑制も認められた。試験管内で、線維芽細胞の培養系にOSMを添加すると、IL-6などの炎症誘導に関わる遺伝子群や破骨細胞誘導因子RANKLなどの骨破壊を促進する遺伝子群の発現が顕著に上昇し、JAK阻害剤の添加により抑制されることがわかった。このことからOSMは線維芽細胞に作用して炎症や組織破壊をひきおこす能力を高め、これらの活性はJAK阻害剤によって抑制されることがわかった。
線維芽細胞でOSM受容体欠損のマウスでは関節炎抑制
生体内での重要性を明らかにするため、線維芽細胞にのみOSM受容体を欠損した遺伝子改変マウスを作製し関節炎を誘導したところ、線維芽細胞でOSMシグナルが働かない遺伝子改変マウスでは関節炎が抑制されること、野生型マウスでは関節炎がJAK阻害剤によって抑制されるのに対し、遺伝子改変マウスではJAK阻害剤の効果が認められないことを見出した。以上の研究結果から、マクロファージが産生するOSMが線維芽細胞に作用し、炎症や骨破壊に関わる遺伝子群の発現を誘導して自己免疫性関節炎の病態形成を促進すること、JAK阻害剤の主な標的の1つが線維芽細胞のOSMシグナルであることが明らかになった。
病態解明と患者の病態に即した治療法の提供につながることに期待
これまで関節リウマチにおいてJAK阻害剤は主にIL-6やIFNシグナルを抑制することにより治療効果を発揮することが想定されてきたが、今回の研究により、線維芽細胞のOSMシグナルの病態形成やJAK阻害剤の治療標的としての重要性が明らかになった。JAK阻害剤の投与により線維芽細胞のOSMシグナルに次いでマクロファージのIL-6シグナルも抑制が認められたが、IL-6はOSM刺激により線維芽細胞で発現誘導されることからも、OSMによって活性化された線維芽細胞とマクロファージの相互作用が関節炎の病態形成に重要であることが示唆された。
関節リウマチでは、個々の患者によって活性化している細胞やシグナル経路がさまざまなパターンが存在することが知られており、患者の病態に即した治療法を提供できるような治療戦略の確立が重要な課題となっている。関節リウマチにおいてIL-6受容体抗体では治療効果が認められなかった患者がJAK阻害剤では効果があった症例も報告されており、今回見出したOSM阻害の重要性を示唆する知見と考えられる。
「本研究は主に動物モデルを用いた研究であるため、今後関節リウマチ患者の臨床検体の詳細な解析と合わせることにより、関節リウマチの病態解明と治療法の開発につなげることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース