大腸がん早期発見・予防につながる腸内検査は確立されていない
藤田医科大学は7月31日、特定の腸内細菌が有する5αリダクターゼ遺伝子(5ar)が、大腸がんのステージが進行するに従い減少することを発見したと発表した。この研究は、同大消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス講座らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Microbiology」オンライン版に掲載されている。
腸内環境への注目とともに、腸内環境をモニタリングする技術が日々開発されている。代表的なものに、腸内細菌を網羅的に解析する16Sアンプリコンシーケンスなどの技術がある。これらの技術は研究や医学的な用途では汎用性が高い一方、時間と費用がかかるため、一般化するためには多くの課題がある。
藤田医科大学では最先端の消化器がんの研究を行うとともに、早期発見や予防につながるような腸内検査の研究を行っている。研究グループは今回、大腸がんに着目し、臨床的かつ一般の人に安価に簡便使用できる腸内検査の確立を目指し、大腸がんの進行に従い減少する5ar遺伝子を腸内遺伝子マーカーとする技術の開発に取り組んだ。
5arレベルのPCRベースのモニタリングが、大腸がんリスクの評価に有用と判明
研究では、144人の大腸内視鏡検査を実施し、非腫瘍性粘膜 (52人)、腺腫(69人)、がん(23人)に患者を分類。その後、検査時に収集した大腸洗浄液からDNAを抽出した。一方、5α-リダクターゼ遺伝子(5ar)を検出する特定のプライマーセットを作成後、144件全てのDNAサンプルに対し定量PCR(qPCR)を行い5arの量(5arレベル)を定量し、統計的な解析を実施。定量結果が妥当であることは、アンプリコンシーケンスにより確認した。
この方法により、大腸がん(CRC)の進行に伴う腸内の5arレベルの変化が明らかになり、5arレベルのPCRベースのモニタリングがCRCリスクの評価に有用であることが示唆された。
腸内遺伝子マーカーを指標にプレバイオティクスによる補完治療開発も目指す
日本のがん統計によると大腸がんの発生率は増加傾向にあり、特に50歳以上の年齢層で多く見られる。大腸がんは腸内細菌との関連性も報告されており、いくつかの菌をターゲットとした検査も開発されているものの、発症した後の検出を目的としたものも多く、早期発見や予防目的として使う検査としては不十分だった。
今回の研究により、大腸がんの早期発見・予防につながる可能性のある腸内遺伝子マーカーが明らかとなった。大腸がんは食生活の欧米化や高脂肪・低繊維の食事が発症のリスクを高める要因とされ、大腸がんの予防には定期的な健康チェックが重要であると言える。現在さらに研究が進み、特定のプレバイオティクスにおいて制御できる可能性が示唆されている。今後は腸内遺伝子マーカーを指標として早期発見・予防につなげ、プレバイオティクスを用いて日々の生活管理につながる展開を目指すとしている。
「当研究室では、ウェルネオシュガー株式会社、伊那食品工業株式会社、帝人株式会社などのプレバイオティクス企業と連携し、腸内遺伝子マーカーを制御し消化器がんの予防につながるプレバイオティクスの開発も行っている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・藤田医科大学 プレスリリース