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肥満関連糸球体症、腎予後と関連する特徴がネフロン・ポドサイト解析で判明-慈恵医大

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2024年08月06日 AM09:10

著しく腫大した糸球体が特徴の肥満関連糸球体症、経過を規定する因子は未解明

東京慈恵会医科大学は7月24日、独自に開発したネフロン・ポドサイト解析法を用いて、肥満による腎障害の程度に個人差が生じるメカニズムを世界で初めて臨床的に実証したと発表した。この研究は、同大腎臓・高血圧内科の春原浩太郎助教、坪井伸夫准教授、横尾隆教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満は、日本を含め世界中で、生活習慣病や死亡率増加に関連する重要な病態である。肥満は、高血圧や糖尿病などを介して慢性腎臓病の発症に関与する一方で、肥満自体が慢性腎臓病の原因となることがわかってきた。肥満による慢性腎臓病患者の一部は進行性の経過を示すため、腎生検による介入が行われるようになり、肥満関連糸球体症という肥満に特有の腎臓病の一型が認知されるようになった。肥満関連糸球体症は、尿タンパクと緩徐に進行する腎機能障害を臨床的な特徴とする。病理組織学的に著しく腫大した糸球体が特徴的であり、ポドサイト傷害による分節性糸球体硬化を認めることもある。治療としては、体重減量や食事療法を含む生活習慣の是正や降圧薬などの薬物療法を行うことが一般的である。しかし、これらの治療法に抵抗性を示し腎不全に至る例も多く、このような進行性の経過を規定する因子を解明することが求められている。

肥満関連糸球体症の早期に起こる糸球体過剰濾過、発症との関連は不明

ネフロンは、腎臓の濾過機能を担う1ユニットである。腎臓1つ当たりのネフロンの数は、約60万から120万個と個体差が大きいうえに、加齢・高血圧・腎疾患などによってさらに減少し、慢性腎臓病の進展に深く関与している。腎機能は、ネフロン数と単一ネフロン糸球体濾過量との積和で決定されるため、さまざまな原因によるネフロン数の減少に伴って、単一ネフロン糸球体濾過量が増加することで腎機能を代償すると考えられている。一方、この単一ネフロン糸球体濾過量増加は糸球体への負荷となり、糸球体障害やネフロン数減少によって、さらに単一ネフロン糸球体濾過量増加を招く悪循環が形成される。これは「糸球体過剰濾過仮説」と呼ばれ、慢性腎臓病の進展過程に共通する背景理論として広く受け入れられている。

これまでに研究グループは、腎疾患症例においてネフロン()数を推算する方法を確立し、この手法により早期の肥満関連糸球体症では糸球体過剰濾過が存在し、腎機能障害に関与することを示した。しかしながら、発症早期の段階ではネフロン数の減少は認めず、なぜ一部の肥満者でのみ肥満関連糸球体症が発生するのかについて、根本的な原因は解明できなかった。

糸球体構成するポドサイトに着目し独自の方法で数と大きさを計測

研究グループは、これまでの研究経緯から糸球体を構成する重要な細胞であるポドサイトに着目した。ポドサイトは、糸球体毛細血管を外側から束ねる上皮細胞で、腎臓の正常な濾過機能を維持するために不可欠とされる。一方、ポドサイトの脱落と減少は、持続性タンパク尿と糸球体硬化の原因となり、腎臓全体の不可逆な荒廃化への過程として進行性腎疾患に共通する過程と考えられている。しかし、糸球体毛細血管を覆うポドサイトは、複雑に入り組んだ構造をしているために、ポドサイトの数を正確かつ簡便に測定することは困難だった。研究グループは、腎組織一切片からポドサイトの数や大きさを計測する独自の方法を新たに確立することに成功した。今回の研究でも、この方法を用いて肥満関連糸球体症例のポドサイトの数と大きさを計測した。

早期症例で糸球体あたりのポドサイト数・密度は既に低下、密度は腎予後不良と関連

その結果、腎機能が保持された早期の肥満関連糸球体症例では、肥満合併腎移植ドナー例と比較して、ネフロン数は同程度だったが、糸球体あたりのポドサイト数と糸球体容積あたりのポドサイト数(ポドサイト密度)は既に少なくなっていた。肥満関連糸球体症例の中でも、腎生検時のポドサイト密度が低いほど、その後の腎機能低下が早く、腎予後が不良だった。一方で、ポドサイト数と腎予後との関連は認めなかった。単一ネフロン糸球体濾過量は、ポドサイト密度と負の相関を認めたが、ポドサイト数とは関連しなかった。

以上の結果より、肥満関連糸球体症の発症にはポドサイトの相対的・絶対的な数の減少が、また、腎機能障害の進展にはポドサイト密度の減少が関与していることが明らかになった。これらの結果は、肥満によって惹起される単一ネフロン過剰濾過とポドサイトの潜在的な数の不一致が本症の発症と進展に関与していることを示唆している。

ネフロンやポドサイトの指標を治療ターゲットとした新規治療法の確立にも期待

今回の研究の成果により、ネフロン数の減少に伴う単一ネフロン糸球体濾過量の増加が、さらなる糸球体障害およびネフロン数減少の悪循環を招くことが確認された。腎生検を行った肥満関連糸球体症例では、ポドサイト密度に着目することで、腎不全進行のハイリスクと考えられる症例を効率的に識別し、より厳格な治療介入を計画することも可能になる。

この研究で調査した肥満関連糸球体症では、腎機能やネフロン数が保たれた段階で既にポドサイト数とポドサイト密度が少なくなるという特徴があり、中でもポドサイト密度が低い例は肥満による影響を受けやすく、腎予後が不良となることが明らかになった。このような機能と形態の不一致による腎機能障害は、さまざまな臨床的状況においても想定することができる。今後は、糖尿病腎症、糸球体腎炎あるいはネフローゼ症候群などその他の腎疾患において、ネフロンやポドサイトの指標が病態や臨床像に如何に関わっているのかについて検証する予定である。

「現在慢性腎臓病の治療の中心となっている減塩などの食事療法や、腎保護効果が確認された薬物療法が、ネフロンやポドサイトの指標に及ぼす影響の解明や、最終的にはネフロンやポドサイトの指標を直接的な治療ターゲットとした慢性腎臓病の新規治療法の確立が期待される」と、研究グループは述べている。

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