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慢性腎不全の進行抑える経口吸着剤、服薬量を大きく低減する方法開発-九大

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2024年08月05日 AM09:00

重要な課題である人工透析患者の増加、有効な治療薬は未開発

九州大学は7月30日、慢性腎不全の進行を遅延させるために大量の医療用活性炭を服薬し原因物質を腸管内で吸着除去する処置において、服薬量を3分の1に低減できる新しい炭素吸着剤の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院の藤ヶ谷剛彦教授、加藤幸一郎准教授、田中直樹助教、工学府博士課程3年のA.B.M. Nazmul Islam氏、同修士2年の赤峰麻衣氏(当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Carbon Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性腎疾患の多くは腎機能障害がある程度進むと、それ以後は急激に進行し、末期腎不全に至る。末期腎不全に至るとその治療としては人工透析しか手段がない。人工透析は、最も普及している治療方法であるが、治療に特殊な装置を必要とし、長時間の治療で患者に肉体的、精神的な苦痛を生じさせてしまうことが課題である。また、透析に至った場合、大きな医療費増加になることから、国の財政面における負担も大きい。人工透析患者は2000年には20万人を、2011年には30万人を突破しその数は年々増加傾向にある。このため、慢性腎不全の進行速度を遅延させ、人工透析を回避する対処法の開発は、患者のQOL維持の観点からも、国の財政維持の観点からも極めて重要である。しかしながら現在のところ有効な治療薬はまだ見出されていない。

腸内で尿毒症毒素前駆体を吸着する経口吸着剤、吸着選択性低く大量の服用が必要

現在、慢性腎不全の進行を遅延させる目的で実施されている治療方法としては、低タンパク質食事療法、血圧調整に加えて経口吸着剤の服用が行われている。経口吸着剤としては、球形多孔質活性炭を用いた経口吸着剤である「」(呉羽化学工業社製)が1991年に医薬品として登場し、実際に使用されている。

これまで、活性炭の前駆体や作製方法などの改良で同様な比表面積や空孔サイズを持つさまざまな医療用活性炭が開発されている。これらの経口吸着剤は、腸内に発生したインドールなどの尿毒症毒素前駆体を吸着することによって腸管からの吸収を極力抑えるものであるが、生体にとって大切なビタミン類やその他の栄養素、消化酵素などをも吸着し、吸着選択性の低いものであった。このため、これらの経口吸着剤は、充分な量の尿毒症毒素前駆体を吸着するために大量に(1日6g)服用する必要があった。しかし、慢性腎不全患者は、もとより水分制限を強いられており、大量の経口吸着剤を毎日飲み続けることは大きな負担であった。また、服用により、便秘や食欲不振などの副作用を伴う場合が多かった。このように、従来の経口吸着剤は、必ずしも患者のQOLの高いものではないことが課題である。

穴サイズをナノレベルで制御可能な炭素材料使用、クレメジンより3倍以上の吸着選択性

活性炭は高い比表面積を有しさまざまな物質を吸着できるため、さまざまな物質の中から目的物のみを選択的に吸着する機能に乏しい。選択性を向上させるために、活性炭に空いている穴のサイズに注目し、穴のサイズを制御することにより選択性の向上が試みられてきたが、活性炭はサイズの厳密な制御が難しいため、選択性付与も不十分であった。

そこで、穴のサイズをナノメートルサイズで制御可能なメソポーラスカーボンに着目し、3nm程度の穴を持つメソポーラスカーボンを作成したところ、アミノ酸の共存下において市販活性炭であるクレメジンと比較し3倍以上の高いインドール吸着選択性を示すことを明らかにした。計算シミュレーションや比較実験の結果、インドールよりわずかに大きなアミノ酸であるトリプトファンやフェニルアラニンは穴には入りにくいため吸着量が小さく、サイズ制御された穴がインドール吸着のための「ふるい」のような役割を果たしていたことを突き止めた。

今後、共存物質として、さらに大きなビタミン類や酵素などを存在させた環境においても選択性を維持できるか実験し効果を検証する。「マウスを使った動物実験により実際の腸管においても同様な選択性を示すことを実証することで、実用化に向けた基本的なデータを取得する」と、研究グループは述べている。

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