高齢化を背景に増加するCKD、加齢による腎機能低下の正確なメカニズムは未解明
大阪大学は7月30日、加齢に伴う腎臓病の病的メカニズムと、その早期診断や治療法に関する最新の研究報告をまとめ、将来の臨床応用を見据えた視点から解説した総説を発表したと報告した。この研究は、同大大学院医学系研究科の山本毅士特任助教(常勤)、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Reviews Nephrology」にオンライン掲載されている。
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人間の寿命は医療の進歩により延び続けているが、同時に加齢関連の疾患の発症率も増加している。CKD(慢性腎臓病)もその一つで、現在の日本では、急速に進む高齢化を背景に、CKDの患者数が増加している。
CKDは電解質異常や高血圧のリスクを高めるだけでなく、治療や検査において医療的な制約をもたらすことがある。加齢に伴う腎機能低下はCKDの増加に直結し、社会的および経済的に大きな負担となっている。この腎機能低下の正確なメカニズムはいまだ解明されていない。超高齢化社会において健康寿命を延ばすためには、加齢に伴う腎臓の病的メカニズムの理解を深めることが重要である。
細胞老化・炎症・ミトコンドリア機能低下など、さまざまな要因が腎臓の老化を促進
今回研究グループが発表した総説では、老化の特徴として知られるいくつかの生物学的プロセスが腎臓病の発症や進展にどのように関連しているかを明らかにした。腎臓は代謝的に非常に活発な臓器であり、年齢とともにその機能が低下する。この機能低下には、細胞老化、炎症、ミトコンドリアの働きの低下、Sirtuin(長寿遺伝子)やKlotho(抗老化ホルモン)というタンパク質のシグナル伝達の変化、オートファジーやリソソームの働きの変化など、さまざまな分子レベルのメカニズムが関与している。これらの要因が腎臓の老化を促進させる。
加齢に伴いオートファジー調節に異常、持続的な加齢ストレスに対抗できなくなる
この点について、総説の前半では、特にオートファジーの役割や加齢に伴うオートファジー活性の変化に焦点を当てている。若いマウスの腎近位尿細管では、ストレスに対してオートファジーが活性化し、適応機構としてストレスに対抗する。しかし、高齢マウスの腎近位尿細管では、持続的な加齢ストレスに対抗するためオートファジーが働いているものの、さらなるストレスに対してオートファジー活性を十分に増加させることができない。このような加齢に伴うオートファジーの調節異常は、リソソームの機能不全やオートファゴソームの成熟の異常によって引き起こされる。具体的には、加齢と共に転写因子MondoAの活性低下がRubiconの発現を増加させ、これがオートファゴソームの成熟を負に調節する。このような腎老化の病的メカニズムは、CKDの進展や急性腎障害(AKI)の脆弱性に悪影響を与える。
CKDは腎臓の生物学的加齢を加速、早期老化やフレイル促進しさらに腎疾患病態を悪化
次に、生物学的年齢と暦年齢(実年齢)の概念を紹介している。生物学的老化は組織や生体機能の低下を指し、暦年齢は出生からの時間の経過を示す。正常に老化する個体では、暦年齢と生物学的年齢は一致する。しかし、CKDは腎臓の生物学的加齢を加速させ、早期老化を促進する。そのため、個人の生物学的年齢と暦年齢の差異である「年齢ギャップ」が生じる。CKDは心血管疾患、認知機能障害、サルコペニアなどの老化関連疾患の発症や併存疾患の増加を引き起こし、フレイルのリスクを高める。さらに、早期老化とフレイルは腎臓の老化と腎疾患の病態を悪化させ、悪循環を形成する。
腎臓の老化や早期老化の早期発見などに役立つバイオマーカー、新規治療法の可能性も
総説の後半では、前半で解説した腎老化のメカニズムに関連して、新しい技術とバイオマーカー(体の状態を示す指標)、そして新規治療法の可能性についても解説した。新しい技術とバイオマーカーは、腎臓の老化や早期老化の早期発見、診断、管理に役立つことが期待されている。特に、炎症、ミトコンドリア機能、酸化ストレス、細胞老化、オートファジー・リソソーム系に関連する経路を標的にした治療法は、動物実験において、腎臓の老化を予防・遅延させることが判明している。
今回発表した総説は、腎臓の老化のメカニズムを理解し、老化関連腎疾患の早期診断と治療法の開発に役立つ。腎臓の健康を維持することが全身の健康を保つために重要であることを強調している。「高齢者におけるCKDの特徴を理解し対策することの重要性が、これまで以上に社会に認知されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU