開発した「固有感覚機能診断治療装置」で高齢者の腰痛治療は可能?
国立長寿医療研究センターは7月22日、固有感覚機能診断を基にした高齢者の慢性腰痛に対する新しい治療法を開発したと発表した。この研究は、同センター整形外科部の酒井義人部長らのグループと、名古屋工業大学との共同研究によるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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固有感覚機能(proprioception)とは、体の各部分の位置、動き、筋収縮の状態などを感知する深部感覚で、ヒトの姿勢を制御する重要な機能だ。例えば目を閉じても足の位置や体の向きがわかるのも、この機能が働いているからである。この固有感覚を司るのは筋紡錘やパチニ小体といった固有感覚受容器で、これらが機能し、脳で感知することなく骨格筋と脊髄の間で反射的に調和を保っている。
近年、この固有感覚機能の低下が腰痛の一因であるとの研究結果が散見される。その中で研究グループは、高齢の腰痛患者に特徴的な固有感覚機能異常を特定し、加齢に伴い筋肉が減少するサルコペニア患者で、さらにこの機能が低下することを見出した。そこで機能低下した固有感覚受容器を特定し、特殊な振動刺激を加えることで固有感覚器機能を賦活化できる装置を名古屋工業大学と共同で開発した。
同装置は30-240Hzの振動刺激を体に連続的に与えた状態で、重心動揺計により生体反応を評価することで固有感覚機能が診断でき、機能低下した受容器に対して呼応する周波数刺激を付与することにより、固有感覚機能が向上する。実際に、この機器を用いて低下していた固有感覚機能が向上することを確認した。そこで今回、実際の難治性腰痛患者に、この固有感覚機能診断治療装置を用いて治療を行った。
同装置を1日3回2週間の使用で固有感覚機能が81.3%、腰痛が73.1%改善
研究グループが、薬物療法の効果のない6か月以上持続する65歳以上の慢性腰痛患者56例を対象に開発した装置を用いて固有感覚診断を行った結果、32例に固有感覚機能低下を認めた。そのため、この32例に機能低下した固有感覚受容器を賦活化する特殊な振動装置を搭載した治療機器を自宅で2週間、体に当ててもらい、腰痛と固有感覚機能の改善が得られるか評価した。
その結果、この特殊な振動を連日1日3回2週間にわたり体に付与することで、腰痛と固有感覚機能がともに改善し、治療を終了してさらに2週経過観察すると、腰痛と固有感覚機能ともに悪化していた。同治療により、固有感覚機能の改善は81.3%に認められ、その中で73.1%の患者が腰痛の改善が得られていた。
固有感覚機能の診断だけでなく腰痛の治療も同時に行える機器として期待
今回の研究成果により、同治療装置を固有感覚機能の低下を伴う慢性腰痛患者に使用することで、腰痛と固有感覚機能の改善が期待されることが実証された。高齢者の慢性腰痛は薬物療法に頼るところが大きく、また、骨粗しょう症やサルコペニアを合併していることも多く治療に難渋することも少なくないため、新規治療法の開発が待たれていた。
「この診断治療機器では、従来臨床的には困難だった固有感覚機能の診断を詳細に行うことができ、かつ治療も同時に行える優れた機器であり、今後普及することで慢性疼痛治療にとって福音となる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター プレスリリース