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肺エコー動画から気胸の病変所見を自動検出するAI技術を開発-産総研ほか

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2024年08月01日 AM09:30

アーチファクトを診断に活用する肺エコー特殊事情、普及の妨げに

国立産業技術総合研究所(産総研)は7月24日、超音波診断動画から肺病変の所見に必要な特徴を高精度・高速に自動検出するAIを開発したと発表した。この研究は、同研究所工学計測標準研究部門 材料強度標準研究グループの内田武吉主任研究員、田中幸美主任研究員、自治医科大学の鈴木昭広教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Heliyon」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

超音波による肺病変診断は肺エコーと呼ばれ、肺の診断において高い有用性が認められており、近年注目を集めている。肺エコーは、呼吸困難などの緊急事態で、患者の負担が大きいレントゲンやCTなどを利用しなくても、現場でリアルタイムに診断可能なツールである。

肺エコーは、肺を包んでいる膜(胸膜)と胸膜由来のアーチファクトを中心に観察する診断方法である。アーチファクトは、実際には存在しない虚像のことで、超音波診断法では表示されてしまうことがある。他の臓器を対象にした超音波診断ではアーチファクトは誤診の原因になるため、それをなくすための改善がなされてきた。肺エコーではこのアーチファクトなどを肺病変診断の手がかりとして積極的に利用するという特殊事情がある。アーチファクトと実像が混在する肺エコーの所見を正確に読み取れるようになるには、相応の経験と指導者が必要になるため、肺エコーを実施できる臨床医が不足している。このことは、熟練臨床医の負担を増加させ、肺エコーの普及を阻害する要因となっている。

気胸に見られる胸膜の位置と動きを自動抽出する技術を検討

今回研究グループは、AIの学習方法の一つである深層学習手法を応用し、気胸に関連する基本的な所見である胸膜の位置と動きを高精度かつ高速に自動検出する技術を開発した。気胸は、胸膜に穴が開いて肺からの空気が漏れて胸膜の中(胸膜腔)にたまり、肺がしぼみ呼吸困難な状態で、時に迅速な処置を求められる病態である。

深層学習には、高品質かつ十分な量の学習データが必要不可欠であるが、急性期肺エコーを専門とする鈴木教授が超音波診断動画を提供。深層学習の一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNNs)を用いて、肺エコー診断における重要な指標である胸膜ラインとlung slidingの自動検出に取り組んだ。胸膜ラインは、密着しあう胸郭内部と肺表面の2つの胸膜、そして胸水が一緒に観察されるものだ。Lung slidingは、肺が伸び縮みする際に、肺表面の胸膜が呼吸運動に伴って横方向に動く所見である。横方向の動きがあれば正常、無い場合は気胸が強く疑われる。

胸膜ライン自動検出の精度はF値0.988

CNNsによる胸膜ラインの自動検出の精度を評価するためにF値を用いた。F値は、適合率(陽性と予測したものの正解率)と再現率(陽性のうち正しく予測できた率)を一緒に評価する指標であり、1に近いほど予測精度が高いことを示す。F値は位置の検出精度の評価手法(今回ならば胸膜ラインの位置の検出精度)として一般的に用いられている。CNNsによる胸膜ラインの自動検出の正誤の判定は臨床医が行った。今回用いた超音波診断動画におけるF値は0.988であり、高い精度で検出可能であることがわかった。

Lung slidingは動画から二次元画像に自動変換して検出、臨床医判定に対するAUCは0.894

Lung slidingの自動検出速度を向上させるため、動画内のlung slidingの横方向の動きを二次元画像に変換するプログラムを構築し、その後CNNsによる検出を試みた。肺エコー動画のフレーム毎に胸膜ラインの領域を切り取り、それを縦に並べ二次元画像を作成。二次元画像の縦軸は時間の経過を示しており、CNNsはlung slidingの有無を模様の違いで判断する。Lung sliding有の場合はまだら模様、無の場合は直線模様になる。動画をそのまま使用する場合、自動検出に時間がかかるため、臨床での使用が難しいと判断し、上記の対応を試みた。一般的な性能のPCを用いて二次元画像の方法を用いると数秒で検出が終えられる。将来的な製品化を考えた場合、プログラム動作が軽いことはメリットになる。評価指標は、横軸に偽陽性率、縦軸に真陽性率を取った曲線の下側の面積の大きさを示すArea Under Curve(AUC)を用いた。

結果として、臨床医の判定に対するAUCは0.894という高い値を得た。この評価値は、構築したAIが高い精度で胸膜の位置や動きを予測可能なことを示している。これらの結果は、胸膜の位置や動きと、そこから派生するアーチファクトを用いて診断を行う肺炎や肺水腫などの特徴の自動検出にもつながる。

肺炎や肺水腫の自動検出、肺エコー専用の超音波プローブ開発を目指す

今後、研究グループは肺炎や肺水腫の所見の自動検出を検討、また、肺エコー専用の超音波プローブの開発を目指すとしている。超音波プローブの周波数や形を最適化することで、超音波診断画像が鮮明化しAIによる検出精度の向上につながる。

「肺エコーを実施する人の経験が浅い場合でも、現場でリアルタイムに人工知能()システムを用いて診断のヒントを得ながら診療を行うことができれば、急性期の現場での救命率の向上につながる。また、AIを応用することで、所見の見逃し防止、熟練臨床医の負担軽減、教育ソフトとしての活用による人材教育の効率化も可能だ」と、研究グループは述べている。

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