骨強度などを改善する新しい治療薬が期待されている
富山大学は7月24日、SIK3の阻害剤であるプテロシンBという天然物質に、破骨細胞の機能を抑制する作用があることを発見したと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系整形外科の川口善治教授、亀井克彦氏(当時:博士課程4年)、大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科の箭原康人准教授、岐阜大学工学部の竹森洋教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されている。
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骨の質と強度は、その形成と吸収のバランスによって維持されている。経年的な骨恒常性の破綻は、骨粗鬆症に代表される骨代謝性疾患を誘導し、易骨折性による社会活動の低下や寝たきりの原因となる。そのため骨質と骨強度の改善を目指した新しい治療薬の開発が期待されている。研究グループは、細胞内のエネルギー枯渇によって活性化されるAMP依存性プロテインキナーゼファミリーに属するタンパク質リン酸化酵素である、SIK3に着目した。SIK3は細胞内のエネルギーセンサーとして機能し、細胞活動のエネルギー源であるATP需要の増加に伴って活性化するリン酸化酵素である。
破骨細胞系列でSik3遺伝子欠失のマウス、骨量が顕著に上昇
今回の研究では、破骨細胞の分化・成熟におけるSIK3の機能を解明することを目的とした。破骨細胞分化におけるSIK3の機能を解明するため、破骨細胞系列においてのみSik3遺伝子を欠失したマウスを作製した。生後8〜10週齢雌マウスの大腿骨をマイクロCTと組織学的解析を用いて評価した結果、Sik3遺伝子を欠失したマウスでは同腹の野生型マウスに比べて、骨量が顕著に上昇することがわかった。破骨細胞におけるSik3遺伝子の欠失は、破骨細胞の分化と基質吸収能を抑制することで、骨量が増加したものと考えられた。
SIK3経路の阻害剤プテロシンB、破骨細胞分化と成熟を抑制
研究グループは、これまでにSIK3経路の阻害剤としてプテロシンBを同定し報告してきた。そこで、次の実験でマウスマクロファージ細胞株RAW-264細胞とマウスの骨髄から採取した単球を破骨細胞へと分化誘導し、プテロシンBの効果を検証した。その結果、プテロシンB処理によって、破骨細胞の分化と成熟が強力に抑制されることを明らかにした。
SIK3の機能欠損群とプテロシンB処理群でエネルギー代謝関連遺伝子が有意に変化
SIK3の機能欠損およびプテロシンB処理が、破骨細胞分化に及ぼす影響を評価するため、遺伝子発現解析を試みた。その結果、SIK3の機能欠損およびプテロシンB処理群では、酸化的リン酸化、TCAサイクルなどの細胞内エネルギー代謝に関連する遺伝子群が有意に変化していることを明らかにした。SIK3は、破骨細胞が形成される際の、細胞内のエネルギー需要の高まりに応答して活性化する。SIK3の機能欠損とプテロシンBはこの機能を阻害することで、破骨細胞分化に対して抑制作用を発揮する可能性が示された。
SIK3を標的とした骨粗鬆症などの治療薬開発につながる可能性
今回の研究成果によって、破骨細胞のエネルギー代謝制御分子であるSIK3の機能を抑えることで、破骨細胞の分化と成熟を阻害し、骨の形成を促す治療法の可能性が示された。「今後は、SIK3を標的としたより効果的な骨粗鬆症治療薬の開発を目指す」と、研究グループは述べている。
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