基本チェックリストの「認知機能」項目のみでハイリスク者を抽出できていない可能性
畿央大学は7月24日、要介護状態のリスクが高い高齢者を抽出するための基本チェックリスト全25項目のうち、5項目が1年間の新規認知症発症に関連し、5項目の合計スコアが、基本チェックリストの認知機能項目や総得点よりも予測精度が優れていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院健康科学研究科の中北智士客員研究員、健康科学研究科の松本大輔准教授、高取克彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されている。
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認知症は世界的な課題であり、今後、日本でも認知症高齢者が増加すると推計されている。各地方自治体において、要介護状態のリスクが高い高齢者を抽出するために基本チェックリストが用いられている。基本チェックリストの認知機能項目への該当状況は、認知症の発症に有用であることが報告されている。しかし、認知症の初期症状は記憶障害だけでなく、日常生活のあらゆる場面に問題が生じることが多く、基本チェックリストの認知機能項目だけでは、ハイリスク者を十分に抽出できていない可能性がある。基本チェックリストは、二次予防事業対象者の選定のために厚生労働省が作成した。全25項目7つのドメイン(生活機能、運動機能、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ)で構成されている。
65~80歳6,476人対象、新規認知症発症に関連の基本チェックリスト個別項目を検討
今回の研究では、A市在住の要介護認定を受けていない65~80歳の高齢者を1年間追跡し、死亡者を除外した6,476人を対象に、新規認知症発症(認知症高齢者のに日常生活自立度Ⅱa以上)に関連する基本チェックリストの個別項目を検討した。
新規認知症発症に関連の5項目、買い物・相談・階段昇降・物忘れ・時間的方向性
1年間の認知症発症は40人(0.6%)だった。年齢、性別、家族構成、主観的健康感、ウォーカビリティ、身体活動、近所づきあい、社会参加を調整しても、基本チェックリストの買い物、相談、階段昇降、物忘れ、時間的方向性の5項目が新規認知症発症に関連することが明らかとなった。
5項目合計スコア、認知機能項目や基本チェックリスト合計より有意に高精度
また、5項目の合計スコアは、感度55.0%、特異度84.1%、AUC 0.76(カットオフ値2点)と認知機能項目や基本チェックリスト合計スコアよりも有意に精度が高いことが示された。
今回の研究は、基本チェックリストの個別項目と認知症発症との関連性を示した数少ない研究だ。基本チェックリストの認知機能項目以外の項目であっても1年間の認知症発症の予測に有用であることが示唆された。同研究で示した5項目の合計スコアは、介護予防に関わる地域包括支援センター、保健師等の専門職、介護事業所等においても簡便で一般臨床で活用しやすく、効果的なハイリスク者の抽出や認知症に対する予防的介入の一助となると考えられる。今後は、このスクリーニングモデルが長期的な認知症発症の予測にも有用であるかを検証していく予定だ、と研究グループは述べている。
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