医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 閉経後に骨粗しょう症・体重増加が起こる機序解明、抗酒薬が有効な可能性-九大ほか

閉経後に骨粗しょう症・体重増加が起こる機序解明、抗酒薬が有効な可能性-九大ほか

読了時間:約 3分16秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年07月30日 AM09:10

超高齢化社会の健康寿命を伸ばすために、閉経後の骨量減少や肥満予防は重要な課題

九州大学は7月22日、閉経後骨粗しょう症モデルである卵巣摘出マウスを用いて、閉経後の骨量減少と体重増加を引き起こす共通メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院 歯学研究院 OBT研究センターの自見英治郎教授、安河内友世准教授、口腔細胞工学分野の高靖助教、同大大学院歯学系学府博士課程の黄菲氏、埼玉医科大学 医学部 ゲノム基礎医学の片桐岳信教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 口腔基礎工学分野の青木和広教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biochimica et Biophysica Acta (BBA) – Molecular Basis of Disease」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

閉経後女性では、骨密度の低下と内臓脂肪の増加による体重増加が起こり、骨密度の低下は骨折リスクを増大させ、内臓脂肪型肥満は脂質異常症、メタボリック症候群や女性特有の乳がんなど、さまざまな疾患の発症リスクを上げる。超高齢化社会の健康寿命を伸ばすために閉経後の骨量減少や肥満の予防は重要な課題だ。

女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏は、骨組織で骨形成と骨吸収の両方を活性化し、骨吸収量が骨形成量を上回るために骨量が減少する。一方、閉経後の女性の肥満が亢進する理由は不明な点が多く、体重増加におけるエストロゲンの標的臓器について統一した見解は得られていない。

NF-κB活性について詳細を調べるため、モデルマウスを作製

NF-κBは、炎症反応や免疫応答など健康を守る重要な因子だが、過剰に活性化するとアレルギー疾患、がんや自己免疫疾患などさまざまな病気を引き起こす。NF-κBは骨粗しょう症や肥満にも関与することが報告されている。また、以前よりエストロゲン欠乏がNF-κBを活性化することが報告されているが、閉経後いつどこでNF-κBが活性化されるのかはわかっていない。そこで研究グループはまず、NF-κBの活性化を可視化できるマウス(κB-Lucマウス)を作製し卵巣摘出術を行った。その結果、術後1週間で骨幹端と脂肪組織でNF-κBの活性化が確認できた。

モデルマウスの体重増加の亢進、脂肪組織重量の増加が原因

次に、作製したNF-κBの活性化が亢進したマウス(S534Aマウス)とκB-Lucマウスを交配して卵巣摘出術を行うと、κB-Lucマウスに卵巣摘出術を行った場合と比較して、術後1週間の骨幹端と脂肪組織のNF-κBの活性化が亢進していた。そこで、野生型およびS534Aマウスに卵巣摘出術を行い経時的に体重を測定したところ、術後4週目からS534Aマウスの体重増加が著しくなった。この体重増加の亢進は、脂肪組織重量の増加によるものだった。

モデルマウスの骨量減少、骨芽細胞による骨形成抑制が原因

また、S534Aマウスではインスリン抵抗性の増悪と脂肪組織の脂肪細胞の拡大と炎症マーカーの発現が亢進していた。一方、S534Aマウスでは野生型マウスと比較して、より骨量が減少していた。この骨量減少は破骨細胞による骨吸収の亢進ではなく、骨芽細胞による骨形成の抑制によるものだった。組織学的に骨形成の抑制と骨髄脂肪細胞の増加が認められた。骨芽細胞と脂肪細胞は同じ間葉系細胞から分化することから、骨髄幹細胞から骨芽細胞分化と脂肪細胞分化を誘導すると、S534Aマウス由来の骨髄幹細胞は骨芽細胞分化能力が低下し、脂肪細胞分化能が亢進した。

閉経後の骨量減少・体重増加抑制に、抗酒薬ジスルフィラムが有効な可能性

最後に、閉経後の骨粗しょう症と体重増加を同時に抑制する可能性がある薬剤を選別し、その効果を検討することにした。NF-κBの活性化を抑制する効果を持ち、アルコール誘導性の骨量減少を抑制し、さらに高脂肪食による肥満を抑制する効果をもつジスルフィラムを1つの候補にした。ジスルフィラムはこれまで60年以上、抗酒薬として使用される安全性の高い薬剤だ。κB-Lucマウスに卵巣摘出術を行ってジスルフィラムを投与すると、骨幹端と脂肪組織でNF-κBの活性化が抑制された。さらに野生型マウスに卵巣摘出術を行い、ジスルフィラムを投与すると、体重増加と骨量減少が抑制された。

以上より、卵巣摘出後の骨幹端と脂肪組織のNF-κB活性化の程度が、卵巣摘出による骨量減少と体重増加に関わることが示された。さらに、抗酒薬ジスルフィラムが閉経後の骨量減少だけでなく、体重増加を抑制する可能性があることも明らかになった。

骨と脂肪組織の「」を標的とした新規治療薬の開発に期待

今後、卵巣摘出後、骨幹端と脂肪組織で早期にNF-κBが活性化される細胞を同定することで、閉経後骨粗しょう症と体重増加の新たな治療戦略への展開が期待できる。また、ジスルフィラムはすでに抗酒薬として臨床で使用されており、安全性も確認されているため、骨粗しょう症治療薬だけでなく、閉経後の体重増加を予防できる一石二鳥の薬剤になる可能性がある。

「今回、NF-κBの活性化を可視化できるマウスを作成してエストロゲン欠乏後に骨と脂肪組織でNF-κBが活性化されることを視覚的に捉えることができた。また、ジスルフィラムは骨粗しょう症だけでなく体重増加の予防薬になる可能性がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「独り好き」でも、社会的孤立による精神的悪影響は緩和されない可能性-都長寿研ほか
  • 肺炎球菌ワクチン接種の高齢者で認知症減少、インフルワクチンは無関係-新潟大ほか
  • 肝細胞がんにおける肝移植、Japan基準の妥当性と移植後危険因子を解明-広島大ほか
  • 敗血症患者のICU関連筋力低下、PD-1阻害剤が新たな治療薬候補に-三重大
  • 皮膚内部幹細胞の加齢変化をAIシステムで非侵襲的に確認-メナード化粧品