多因子疾患である斜視、遺伝的背景の全容は未解明
岡山大学は7月24日、内斜視と外斜視を含む斜視、特発性上斜筋麻痺の患者からの末梢血ゲノムDNAを使って全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、候補となる斜視関連遺伝子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(眼科)の松尾俊彦教授、同大学病院眼科の濱崎一郎講師、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌谷洋一郎教授、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授、山口泉講師、川口喬久助教、株式会社スタージェンの中園一幸氏、上辻茂男氏、斎藤聡氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。
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斜視とは、両眼の視線がずれている状態をいい、視線の方向によって斜視の程度(斜視角)が変わらない「共同性斜視」と、視線の方向によって斜視の程度が変わる「麻痺性(非共同性)斜視」の大きく2種類に分類される。共同性斜視には内斜視、外斜視、上下斜視があるが、内斜視にはさらにさまざまな病型があり、その表現型は多彩である(以下の文では、共同性斜視について単に斜視と表記する)。麻痺性斜視としては先天性(特発性)上斜筋麻痺がある。
斜視は遺伝要因と環境要因が関与する多因子疾患であるが、斜視の遺伝的背景については、まだ疾患感受性遺伝子の候補が見つかっている段階である。斜視関連遺伝子の解明は、多彩な表現型をもつ斜視の診断精度向上につながると期待され、さらに斜視では「両眼視異常」という大脳機能異常が見られるため、その関連遺伝子は脳科学の視点からも興味深いと考えられている。また、先天性(特発性)上斜筋麻痺では、上斜筋の低形成があり、遺伝的要因が関与していると考えられている。
斜視のようなヒト多因子疾患は、動物モデルでの検証は難しく、ヒト全エクソーム解析(whole exome sequencing)は、がん組織の網羅的遺伝子検索や希少先天疾患の遺伝子特定には威力を発揮しているが、多因子疾患では必ずしも明確な結果が得られていない。研究グループは、これまでにさまざまな遺伝統計学法を用いて解析を進めてきた。以前の研究で、斜視や特発性上斜筋麻痺の家系を集め、表現型が染色体のどの部位と一緒に伝わるか連鎖解析を行い、2つの候補遺伝子を同定した。その後、1つの候補遺伝子であるMGST2遺伝子を働かなくさせたマウス系統を作製し、マウス用核磁気共鳴画像装置(MRI)での画像計測により眼球の形が変化し、やや大きくなっていることを明らかにしていた。
斜視・特発性上斜筋麻痺の患者由来ゲノムからGWAS実施、候補遺伝子を解明
今回の研究では、別の遺伝統計学の方法としてGWASを行った。斜視や特発性上斜筋麻痺の患者由来の末梢血の白血球からゲノムDNAを抽出して保存したものを用い、疾患と関連する1塩基多型(SNP)を決定した。比較する対照集団として、1塩基多型のデータが公開されていて利用可能な、バイオバンクジャパン(BBJ)の 180K、ASAの2集団と滋賀県長浜市の住民データである「ながはま研究」の合計3つの集団のデータを用いた。全ゲノム関連解析は、遺伝統計学を専門とする鎌谷教授、株式会社スタージェンの専門家らと行った。
3つの対照集団との比較で共通に見られる遺伝子候補に着目し解析を行った結果、内斜視、外斜視、特発性上斜筋麻痺で候補遺伝子にたどり着く事に成功した。
斜視は、大脳機能である「両眼視機能」の異常と捉えることができ、斜視遺伝子候補の発見は、両眼視に関与する大脳機能を解明することを意味すると期待されている。「この研究により、斜視や上斜筋麻痺の原因や治療を考える上での新たな手掛かりになると期待される」と、研究グループは述べている。
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