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原発開放隅角緑内障、日本人の遺伝的リスク推定法を開発-九大ほか

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2024年07月29日 AM09:10

POAGの遺伝的リスク評価に関する研究、アジア系集団に関しては少ない

九州大学は7月23日、日本人の原発開放隅角緑内障()の遺伝的リスクを推定する方法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、眼科学分野の藤原康太助教、園田康平教授、衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門の田宮元教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑形質ゲノム解析分野の鎌谷洋一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Ophthalmology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

POAGは、世界的な失明原因の一つであり、日本でも視覚障害の原因として最多である。病気のなりやすさは、一人ひとりの眼の違いだけでなく遺伝的な違いによって異なることが知られている。POAGの遺伝的要因として、これまでに100を超える数のゲノム上の領域が同定されている。POAGの遺伝的リスク評価に関する最近の研究では、POAGや危険因子である眼圧のゲノムワイド関連解析の結果を用いることで、遺伝的な緑内障のなりやすさを数値化し推定できることが示されている。

しかし、これまでの研究は欧州系集団を中心に解析が進められているが、祖先の違いによって遺伝的な背景が異なるため、集団により遺伝的リスク推定の精度は異なることが知られており、例えばアフリカ系集団においては欧州系集団と比べて遺伝的リスクの識別精度が劣ることが報告されている(受信者動作特性[ROC]曲線下面積は、欧州系集団:0.65-0.68、アフリカ系集団:0.62)。一方で、アジア系集団における同様の研究はほとんどなく、日本人における緑内障の遺伝的なリスクの予測に役立つかは不明だった。

日本人POAGを高精度に識別できる遺伝的リスク推定法の構築に成功

今回の研究では、日本人に最適なPOAGの遺伝的リスク推定法を構築し、その精度について検証を行い、日本人の将来的なPOAGの発症予測や予防のための基盤を築くことを目指した。

研究グループはまず、25種類の遺伝的リスクの計算方法について、東北大学病院および東北メディカル・メガバンク計画が収集した患者-対照サンプル(POAG患者1,191人、対照群2,434人)を用いて、遺伝的リスク推定法の日本人における当てはまりの良さを検証した。その結果、緑内障の国際コンソーシアムのゲノムワイド関連解析でPOAGに統計学的に有意に関連することが示された127の遺伝的変異のうち、バイオバンク・ジャパンの統計量が参照可能な98の遺伝的変異情報を使用した遺伝的リスク推定法が最も高い識別精度(ROC曲線下面積=0.65)を示した。

この推定法は、日本緑内障学会緑内障関連遺伝子研究班(JGS-OG)と日本眼科学会ゲノム研究委員会(GRC-JOS)により収集されたデータセット(JGS-OG&GRC-JOS;POAG患者1,034人、対照群1,147人)でも同等の判別精度(ROC曲線下面積=0.64)を示すことが確認された。数値化した遺伝的なリスクに基づいて、10%ごとにグループ化しPOAG患者と対照群の割合を評価すると、遺伝的リスクが高くなるほど患者の割合が増加することが確認された。さらに、下位10%と上位10%に分類される人を比較すると、患者と対照の割合には大きな違いがあることが確認された(オッズ比:6.15[東北大データセット]、5.81[JGS-OG&GRC-JOS])。

一般住民のデータでも検証、未発症でもリスクは眼圧や視神経乳頭陥凹比と関連と判明

ここまで評価を行ったデータセットは主に大学病院を受診した人を対象としたものであったため、福岡県の一般住民を対象とした久山町研究のデータセットでも上記遺伝的リスク推定法について検証を行った。久山町研究の参加者においては、遺伝的リスクが上位20%の人では、POAGの有病率が下位20%に比べて統計学的に有意に高いことが確認された(9.2%対5.0%)。しかし、大学病院を中心に収集された上述の2つのデータセットに比べて弱い判別精度を示した(ROC曲線下面積=0.56)。

この違いの原因について、今回の研究で明らかにすることは困難だったが、最近の研究では遺伝的リスクが高いPOAG患者は若年で発症するという報告や、眼圧の遺伝的リスクスコアが高い患者は外科的手術を受けやすいという報告があり、大学病院を受診されている患者は一般の患者よりも遺伝的なリスクが高いことが結果に影響した可能性が示唆された。また、緑内障を発症していない一般住民において、POAGの遺伝的リスクが高いと、緑内障発症の危険因子である眼圧が高く、緑内障診療で指標となる視神経乳頭陥凹比が大きいことが明らかになった。このことは、病気を発症する前の段階でも、遺伝的なPOAGのなりやすさが緑内障に関係する眼の違いに影響すると考えられる。

遺伝的なリスクに応じた発症予防や早期発見につながると期待

今回の結果により、日本人のPOAGのリスクが欧州系集団と近い精度で推定可能であることが明らかになった。「遺伝的なリスクが高い場合にどのようにすれば発症が予防できるかはさらなる研究が必要だが、本研究成果は遺伝的なリスクに応じた発症予防や早期発見につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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