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注射剤を「吸入用粉末剤」として製剤化する技術を開発―岐阜薬科大

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2024年07月29日 AM09:00

薬物など液体に電圧を加えることで、室温以下で固化可能な技術「ES法」に着目

岐阜薬科大学は7月19日、タンパク質を吸入用粉末剤として製剤化する新規技術を開発したと発表した。この研究は、同大製剤学研究室の伊藤貴章助教、玉城慎太郎氏(薬学科)、奥田寛生氏(薬学科、当時)、山添絵理子助教、田原耕平教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Pharmaceutics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

タンパク質や核酸を用いた医薬品は、これまで完治が難しかった疾患に対する有望な治療方法として、近年の医薬品開発におけるメガトレンドだ。一方、これら医薬品は注射投与が一般的で、患者に痛み(侵襲性)と通院の負担が伴う。これは、タンパク質や核酸は経口投与では体内に吸収されにくく液体中で不安定で、投与直前に調製する必要があるためだ。加えて、熱にも不安定であるため、保存に特殊な冷蔵設備も必要となる。そこで同研究室では、タンパク質や核酸を「非侵襲的かつ自宅で自己投与できる医薬品」「室温で長期間保存できる医薬品」として開発する研究を推進している。

既存の吸入粉末剤の製造方法の多くは、薬物を粉末固化するために熱を用いるため、熱に弱いタンパク質の分解または失活が懸念される。そこで研究グループは今回、エレクトロスピニング(電界紡糸:ES)法を用いた製造技術に着目した。ES法は、薬物を含む液体に数キロボルトの電圧を加えることで、室温以下で固化可能な技術。得られる固体は直径数百ナノメートルのナノファイバーを形成している。一定量以上の添加物(生分解性の高分子ポリマー)が必要であるものの、あらゆる薬物を固化することができる。

タンパク質を吸入粉末製剤化する製造技術開発に成功、安全性も確認

研究では、添加物にポリビニルアルコールとD(-)-マンニトール、モデル薬物としてタンパク質であるα-キモトリプシンからなるナノファイバーを凍結粉砕することにより、吸入粉末剤を製造した。ポリビニルアルコールはナノファイバーの形成、D(-)-マンニトールは粉砕時間の短縮(0.5分未満)に貢献し、α-キモトリプシンを分解・失活させることなく吸入粉末剤として製造することに成功した。同技術で製造された吸入粉末剤は、上市されている既存の吸入粉末剤と同等以上の肺到達性能を達成している。さらに、吸入粉末剤は、吸入液剤(ネブライザーでエアロゾル化)よりもα-キモトリプシンを安定に吸入製剤化できたことから、吸入粉末剤の優位性が実証された。最後に、同技術で製造した吸入粉末剤の肺組織損傷を評価した結果、明確な肺組織損傷を引き起こすことはなかった。

以上より、新しい吸入粉末剤製造技術は、タンパク質など安定性の低い薬物を吸入粉末製剤化し、安全で効果的な治療に貢献する可能性があることがわかった。

在宅治療、後進国や大規模自然災害時の保存にも貢献する可能性

今回の研究により、タンパク質を吸入用粉末剤として製剤化する新規技術が開発された。吸入粉末剤は侵襲性が低く、薬剤師が吸入指導をすれば自宅で治療ができる。加えて、粉末剤は、後進国など冷蔵設備の整っていない地域への流通および大規模自然災害時の保存に絶大な貢献が期待できる。

「吸入投与は在宅治療を可能にすることで患者の心身の苦痛を取り除きQOL向上が期待できる。また、医療者の注射投与の負担も軽減できる。さらに、吸入液剤は装置が発生させるエアロゾルが大気中を飛散するため使用者以外が吸入曝露する危険性があるが、吸入粉末剤は自身の吸気で治療が完了するため、その心配もない」と、研究グループは述べている。

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