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孤発性ALS、ROPI投与により細胞外小胞のタンパク質組成変化が抑制-慶大ほか

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2024年07月26日 AM09:00

SALSの病態や有効性が示唆されるROPI作用機構の詳細は未解明

慶應義塾大学は7月22日、)の第1/2a相医師主導治験(ROPALS試験)に参加した筋萎縮性側索硬化症()患者由来の血液ならびに脳脊髄液(CSF)に含まれる細胞外小胞(EVs)におけるタンパク質組成の経時的かつ網羅的定量を行い、体液由来EVsのタンパク質組成が孤発性ALS(SALS)患者において健常者と異なること、また、その変化が経時的なSALS病態進行においても同様に起こること、ROPI投与によってこの変化が抑制されることを見出したと発表した。この研究は、同大再生医療リサーチセンターの岡野栄之センター長/教授(研究当時:医学部生理学教室教授)、医学部5年生の加藤玖里純氏、殿町先端研究教育連携スクエアの森本悟特任准教授(研究当時:医学部生理学教室専任講師)、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

EVsは、ほとんどの細胞種から血液やCSFなどの体液中に分泌され、内部にタンパク質や核酸などを有していることから、細胞間の生体物質伝達に関わっているとされており、悪性腫瘍やSALSなどの神経変性疾患において疾患への寄与が推定されている。しかしながら、SALSにおける経時的かつ網羅的なEVタンパク質組成はよくわかっていなかった。

また、ROPIは、ドーパミンD2(D2R)受容体アゴニストでパーキンソン病治療薬として用いられている薬剤で、同大医学部生理学教室においてALS患者由来iPSCより作成した下位運動ニューロンを用いた既存薬1,232種を対象としたドラッグスクリーニングにより同定されたALS治療候補薬である。ROPIの第1/2a相医師主導治験として、同大医学部内科学教室(神経)との共同研究のもと20人のSALS患者を対象としたROPALS試験が行われた。その結果、ROPIはSALS患者における病態進行を有意に抑制することがわかり、ROPIにおけるALS治療薬としての有効性が示唆された。

血液・CSFEVsのタンパク質組成、補体・凝固経路やアクチン重合などで健常群と相違

今回、研究グループは、SALS発症ならびに進行におけるEVsの寄与や、SALS病態の理解、ならびにROPIの作用メカニズム解明を目的として、ROPALS試験に参加した20人のSALS患者より血液ならびにCSFを経時的に採取し、EVにおける網羅的なタンパク質組成を解析した。

血液由来EVs(sEVs)とCSF由来EVs(cEVs)において、全サンプルから検出されたタンパク質群のuniform manifold approximation and projection(UMAP)解析を行ったところ、sEVsとcEVsは大きく異なっていた一方で、健常者群とSALS患者群の分布はsEVsならびにcEVsの群内でそれぞれ異なっていることがわかった。

次に、健常者群とROPI未投与のSALS患者群のsEVsとcEVsのタンパク質組成を比較した。sEVsとcEVsの双方でSALS患者群において上昇したタンパク質群は、補体・凝固経路と関連しており、減少したタンパク質群はアクチン重合やタンパク質品質管理機構と関連していた。

経時的に変化する患者EVタンパク質組成、ROPI投与によって抑制

ROPALS試験では、13人のROPI群と7人のプラセボ群に分けられた。今回の解析ではまず、プラセボ群のデータを使用して、EVタンパク質組成の経時的変化を調べた。プラセボ群における0週目と各サンプリング時点のEVs内のタンパク質の差分変化に対するクラスタリング分析を用いて、各タンパク質の変化を「経時的に増加」「経時的に低下」「経時的に比較的変化なし」3つのグループに分類した。

次に、ROPI群におけるこれらのタンパク質群の変動を調べた。プラセボ群において経時的に増加したタンパク質群はROPI投与によって増加が抑制され、また、経時的に減少したタンパク質群はROPI投与によって減少が抑制された(いずれもP<0.001)。一方で、「経時的に比較的変化なし」として分類されたタンパク質群は、ROPI投与による変化はほとんど認められなかった(sEVsでP=0.7154、cEVsでP=0.4247)。

ROPI投与、「健常者との差」と「経時的変化」を抑制

ROPI投与によるタンパク質組成変化を明らかにするため、まずプラセボ群とROPI群で比較を行った。その後、コサイン類似度分析により、健常者-SALS患者比較、SALS患者内の経時解析で同定されたタンパク質群との比較を行った。その結果、ROPIによって、SALS患者において健常者と比して増加、ないし経時的に増加していたタンパク質群が抑制され、逆にSALS患者において健常者と比して減少、ないし経時的に減少していたタンパク質群が増加した。

ROPIで変化抑制のタンパク質群、炎症やタンパク質品質管理機構に関与と判明

さらに、これらのタンパク質群の機能解析を行ったところ、SALS患者において増加しROPIで減少するタンパク質群は炎症に、また、SALS患者において減少しROPIで増加するタンパク質群はタンパク質品質管理機構に関連していた(いずれもP<0.05)。SALSでは、運動ニューロンの細胞質にTDP-43と呼ばれるタンパク質が凝集体を形成することが知られており、その原因の1つとしてタンパク質品質管理機構の破綻(プロテオスタシスの破綻)が提唱されている。さらに、タンパク質品質管理機構に関与するタンパク質は、EVによって他細胞に供給され得ることと、供給先の細胞においてその機能を発揮し、凝集タンパク質の分解に寄与することが報告されている。よって、EVsに含まれるタンパク質品質管理機構に関与するタンパク質群の減少は、運動ニューロンへの供給低下によりTDP-43凝集が促進され、SALS発症ならびに病態進行に寄与している可能性が想定された。

さらに、SALS患者において健常者と比して増減、ないし経時的に増減していたタンパク質群について、各サンプルにおける含有量を調べ、散布図を作成した。プラセボ群においては、経時的に健常者からデータ分布が乖離していくが、ROPI群では、健常者からのデータ分布の乖離が抑制されていた。よってROPIは、EVタンパク質組成のSALSにおける変化を抑制する効果を持つことがわかり、抗ALS効果が示唆された。

ROPIはD2R-CRYAB経路を活性化し神経炎症を抑制する可能性

健常人由来のiPastを作製、ROPI投与/非投与条件下で培養しRNA-seqを行い、比較した。その結果、iPastではROPI投与によってCRYABの発現が有意に上昇し、神経炎症に関与するCXCL14とCCN2の発現が低下した。ROPIは、D2R作動薬であることから、D2Rの下流で神経炎症抑制に寄与すると考えられているD2R-CRYAB経路を活性化している可能性が示唆された。

機械学習モデル用い予後予測に有用なタンパク質群の同定にも成功

ROPALS試験で収集された詳細な臨床データに基づき、EVs内のタンパク質を用いてALSの臨床指標となるバイオマーカーを探索した。その結果、治験開始0週目におけるsEVsのオステオグリシン(OGN)とcEVsのFERM And PDZ Domain Containing 1(FRMPD1)が、それぞれ予後を最もよく反映する予後予測マーカーとして同定された。さらに、機械学習モデルを用いたバイオマーカー探索によって、sEVsでは155個のタンパク質群が選択され、90.4%の精度を示し、cEVsでは19個のタンパク質群が選択され、80.3%の精度を示した。

研究成果は、EVsに内包されているタンパク質群がSALS発症ならびに病態進行に寄与している可能性を示唆しており、ROPIによってそれら病的変化が抑制されることがわかった。「今後、EVsを用いたALS治療や、神経炎症抑制ないしプロテオスタシスの向上がALS治療戦略として有用である可能性が広がった」と、研究グループは述べている。

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