アルツハイマー病の進行予測に役立つアプリを開発
人により大きく異なるアルツハイマー病の進行を予測できるアプリの開発に関する研究成果を、オランダの研究グループが報告した。このモデルにより、軽度認知障害(MCI)患者と軽度認知症患者の認知機能がどのようなペースで低下するのかを予測できる可能性が示されたという。アムステルダム自由大学アルツハイマーセンター(オランダ)のWiesje van der Flier氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に7月10日掲載された。
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Van der Flier氏らは、アミロイドβ(Aβ)の蓄積が検査で確認されているMCI患者310人と軽度認知症患者651人の計961人(平均年齢65±7歳、女性49%)のデータを用いて、認知症検査の一種として知られるミニメンタルステート検査(MMSE)の経時的な変化を予測するモデルを構築した。MMSEスコア(0〜30点)は、25点以上を正常、21〜24点を軽度認知症、10〜20点を中等度の認知症、10点未満を重度認知症と見なす。予測の際には、年齢、性別、ベースラインのMMSEスコア、アポリポタンパク質E4の有無、MRI検査で測定した全脳および海馬の体積、脳脊髄液中のバイオマーカー(Aβ1〜42およびリン酸化タウの濃度)のデータが考慮された。
MMSEスコアは、MCI患者ではベースライン時の26.4から5年後には21.0へ、軽度認知症患者では22.4から7.8へと経時的に低下していた。モデルは、このような認知機能の低下の予測に役立ったが、不確実な面があることも示された。予測スコアと実際のスコアには、MCI患者の場合は半数で2点未満、軽度認知症患者の場合は半数で3点未満の範囲で差が認められた。
ベースラインのMMSEスコアが28で一定レベルのAβプラークが認められるMCI患者を想定して検討したところ、この患者が中等度の認知症(MMSEスコアが20)に達するまでの時間は6年であるが、認知症治療薬の使用により低下を30%抑制できた場合には、その時間は8.6年に延長することが予測された。同様に、ベースラインのMMSEスコアが20で一定レベルのAβプラークが認められる軽度認知症患者の場合では、MMSEスコアが15(中等度の認知症)に至るまでの期間は2.3年、薬により認知機能の低下を30%抑制できた場合には3.3年と予測された。
Van der Flier氏は、「認知障害を持つ人やその介護者が最も気にするのは、『あとどれくらいの期間、車を運転できるのか』や『あとどれくらいの期間、趣味を続けられるのか』といった質問に対する答えだ。将来的には、生活の質や日常の機能に関わるこのような質問に対する答えを予測するモデルが役立つようになることを期待している。それが実現するまでの間は、本研究のようなモデルによる予測スコアを医師が解釈して患者の質問への答えとするのに役立つことを願っている」と述べている。
研究グループは、このモデルを搭載したプロトタイプのアプリを科学的研究のために公開した。次のステップは、患者、家族、専門家の意見を取り入れた、使いやすいアプリの開発であるという。
ただし、研究グループは、今回開発されたモデルは個人のデータに基づいて予測を行うものの、常に不確定要素が存在するため、個々の患者に対して正確な予測を行うことの難しさを示してもいるとの見方を示している。それでもvan der Flier氏は、「これまでの研究から、人は、たとえ不確かであっても自分の予後についての情報をほしがることが分かっている。したがって、われわれの予測モデルを搭載したアプリは、重要なニーズを満たすことができるはずだ」と話している。
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