RAF/MEK阻害薬との併用療法、KRAS遺伝子変異に対して効果が得られる薬剤は?
京都府立医科大学は7月18日、KRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞において、上皮間葉転換の状態がRAF/MEK阻害薬アブトメチニブとFAK阻害薬デファクチニブの併用療法の有効性に関する重要なバイオマーカーであることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器内科学の吉村彰紘研修員、創薬医学の堀中真野准教授、酒井敏行特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Cancer」にオンライン掲載されている。
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KRAS遺伝子変異は、欧米と比較すると割合は少ないものの、日本を含むアジアにおいても非小細胞肺がんのおよそ15%と、2番目に多く認められるがん遺伝子変異である。正常な細胞は適切な段階で分裂を止め、それ以上は増殖しないが、がん遺伝子に変異を来すと、際限なく増殖するようになる。KRAS遺伝子はヒトのがんで最初にクローニングされたがん遺伝子だが、長年、KRAS阻害薬の創薬は困難とされている。近年、創薬されたKRAS阻害薬でも、およそ1年以内でおよそ75%のKRAS遺伝子変異陽性肺がん患者に病勢の進行が認められ、現状として、まだ十分に有効な治療法は確立していない。
研究グループはこれまでに、RB再活性化スクリーニングという方法を用いてファーストインクラスのMEK阻害剤トラメチニブをはじめ、RAF/MEK阻害剤アブトメチニブなどを見出してきた。RAF/MEK阻害薬はMEK阻害薬と比較し、より強固にMAPK経路のシグナルを抑制できるため、KRAS遺伝子変異に対してさらなる治療効果が期待され、他の薬剤と組み合わせた併用療法による新規治療法の確立が求められている。そこで、RAF/MEK阻害薬と組み合わせることで併用効果が得られる薬剤の同定ならびに併用療法の有効性に関するバイオマーカーの探索を目的に研究を行った。
KRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞、RAF/MEK阻害薬投与でFAKシグナル活性化と判明
KRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞に対して、RAF/MEK阻害薬を投与した際に活性化されるシグナルに着目し、FAKシグナルが活性化されることを明らかにした。また、MAPK経路のシグナルが抑制されることで、cMYCが減少し、IGF-1Rを活性化させるIGF-1の産生が増加した結果、FAKシグナルが活性化されることを明らかにした。
FAK阻害薬との併用療法、マウスモデルで治療中断後も腫瘍の再増大認めず
KRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞に対して、RAF/MEK阻害薬を投与した際に活性化されるFAKシグナルを抑制するために、RAF/MEK阻害薬にFAK阻害薬を併用することで、RAF/MEK阻害薬単剤療法と比較し、細胞増殖抑制効果の上乗せ効果を認めた。同様に、マウスモデルを用いた検討でも、治療中はRAF/MEK阻害薬単剤療法でも抗腫瘍効果が見られたが、治療中断後も併用療法では腫瘍の再増大を認めず、強い抗腫瘍効果が認められた。
併用療法の効果は上皮間葉転換の状態と強く関連
9種類のKRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞に対して、RAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬の併用療法の有効性を評価したところ、3種類の細胞株のみに併用効果があることが判明した。がんゲノムデータベースから抽出したKRAS遺伝子変異陽性肺がん細胞のゲノム情報との検討にて、RAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬との併用効果に関して、上皮間葉転換の状態と強い相関があることを明らかにした。
KRAS遺伝子変異陽性肺がんに対する有効な治療選択に役立つと期待
以上の研究結果から、KRAS遺伝子変異陽性肺がんに対して、RAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬の併用療法は有望な新規併用治療法であることが明らかになった。また、この併用療法の有効性に関して、上皮間葉転換の状態がバイオマーカーとして重要であることもわかった。
現在、RAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬の併用療法は、臨床応用に向けて、KRAS遺伝子変異陽性肺がんをはじめ、さまざまながん腫を対象に臨床試験が行われている。しかし、KRAS遺伝子変異陽性肺がん患者に対しては、当初に期待されたほどの治療成績は得られておらず、有効性に関するバイオマーカーの同定が求められている。
「今後の検証によって、KRAS遺伝子変異陽性肺がん患者に対しても、上皮間葉転換の状態がRAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬の併用療法の有効性に関するバイオマーカーであることが示されれば、KRAS遺伝子変異陽性肺がん患者に対して、RAF/MEK阻害薬とFAK阻害薬の併用療法が有効な患者の選択に役立ち、その結果として、KRAS遺伝子変異陽性肺がん患者全体により良い治療の提供への貢献が大きく期待される」と、研究グループは述べている。
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