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健常女性の睡眠覚醒リズム、月経周期ステージで変化-明大ほか

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2024年07月23日 AM09:30

健常女性の女性ホルモン変動に伴うスキャロッピング、観察はなかった

明治大学は7月18日、健常女性において、月経周期のステージにより睡眠覚醒リズムが変化することを発見したと発表した。この研究は、同大農学部生命科学科動物生理学研究室の中村孝博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Sleep and Biological Rhythms」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

睡眠覚醒リズム、循環機能のリズム、ホルモン分泌リズムなどに表出する約24時間のリズムは概日リズムと呼ばれ、女性(雌性)生殖機能と双方向に密接に関係していることが知られている。特に、月経周期(性周期)の正常な回帰は概日リズム機構と密接に関わっている。また、月経周期に伴う女性ホルモンの変動は概日リズムに影響することが知られている。

女性では、月経から次の月経までの間隔である月経周期は、平均28日周期で一回り(回帰)する。その月経周期中では、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの血中濃度の大きな変動が見られる。卵巣内で卵子のもととなる卵胞が発育する期間である卵胞期には、卵胞の発育とともにエストロゲンが多く分泌され、排卵前にそのピークを迎える。その後、卵子が排卵されると黄体期になりプロゲステロンが多く分泌される。この女性ホルモンの変動は、実験動物では睡眠覚醒リズムなどを駆動する概日リズム機構に影響することがわかっている。

実験動物として用いられるマウスなどのげっ歯類では、4~5日周期で回帰する性周期に伴って、一日の活動リズムが性周期のステージによって変化する。特に、エストロゲンの血中濃度が高くなる発情前期の夜に、活動が亢進しリズムの位相が前進することが知られている。また、プロゲステロンはエストロゲン効果を弱める働きがある。この現象は、アクトグラムという概日リズムを観察しやすい図を作成してみるとホタテ貝の貝殻の模様に似ていることからスキャロッピング(scalloping)と呼ばれる。これまで健常女性では、女性ホルモンの変動に伴うスキャロッピングは観察されていなかった。

20代女性被験者10人対象、スマートウォッチで睡眠覚醒リズムへの月経周期影響を調査

睡眠を構成するレム睡眠やノンレム睡眠の量の変化などを意味する睡眠構造は、月経周期中に変化することは知られていた。しかし、一日の中での睡眠が占める割合などを意味する睡眠覚醒リズムは、(Premenstrual syndrome:)である女性では、変化があることが報告されていた。しかし、月経周期が安定し月経に伴う症状や不定愁訴が少ない女性においては報告されていなかった。また、近年ウェアラブルデバイスの技術が発達し、睡眠時間や睡眠の深さを客観的に取得できるスマートウォッチなどのデバイスが身近になってきた。そこで今回の研究では、スマートウォッチを用いて、10人の20代女性被験者を対象に睡眠覚醒リズムに対する月経周期の影響を調査した。

遅寝遅起き習慣ありで睡眠覚醒リズムに乱れ、月経周期延長の傾向

まず、今回計測した数値について相関関係を調べた。睡眠中点と呼ばれる入眠と起床との中間の時刻と睡眠覚醒リズムの頑強性を意味するQP値との間で強い負の相関関係が認められた。また、月経周期の日数と社会的時差ボケ(時間)との間で、強い正の相関が認められた。これらの結果は、遅寝遅起き習慣のある健常女性は睡眠覚醒リズムが乱れ、不規則な睡眠覚醒リズムが月経周期を延長させる傾向があることを示唆している。

スマートウォッチで正確に月経周期・排卵日の把握可能

次に、月経周期に伴って変化する睡眠覚醒リズムについて解析したところ、睡眠中点とQP値は月経周期のステージによって変化することが判明。特に、リズムの頑強性を示すQP値は、月経期や黄体期と比較してエストロゲン濃度が高い卵胞期に大きくなった。これらのことは、げっ歯類などで観察されるスキャロッピングは、健常女性においても観察されることを意味している。今回の結果から、スマートウォッチを身に付けているだけで正確に月経周期や排卵日が把握でき、煩わしい測定を必要としない妊娠活動(妊活)を近い将来、手に入れることができると考えられる。

妊活/女性特有疾患の発症機構解明・治療法考案への寄与に期待

女性の社会進出が促される日本の現状において、女性の健康増進、特に「妊活」に対する政策は急務である。これまでは軽視されがちであった女性特有の生理現象のメカニズムの解明は、「」などの喫緊の社会的問題を解決する糸口となる研究になるとしている。このような背景により、同研究の主旨である「月経周期により睡眠覚醒リズムが変化する」は、女性特有の睡眠障害などの概日リズムに関連した疾患の発症機構の解明やその予防策の考案に寄与し、女性の健康増進に対して新しい治療方法の確立、治療薬の開発などを促し、社会に貢献する重要な課題であると考えられる。

妊活として、自身の月経周期や排卵日を正確に把握し効率的な受精を促すことが挙げられるが、排卵日を特定するために婦人体温計を用いて毎朝基礎体温を測定し、記録する必要がある。基礎体温は測定条件などにより変動し、正確に排卵日を把握するには不十分であることが指摘されている。また、市販の排卵検査薬を用いて尿中の黄体形成ホルモン(LH)の濃度を測定する方法もあるが、購入する手間や検査する手間がかかる。同研究成果により、日常的に使用しているスマートウォッチを身に着けるだけで排卵日を特定できるアルゴリズムを構築することにつながるという。月経周期に伴って変化する睡眠覚醒リズムをスマートウォッチなどで取得し解析することで、測定や検査なしに排卵日を正確に自動的に教えてくれるアプリの開発につながることが期待される。また、スマートウォッチで計測可能なさまざまな生体情報(体温変化、心拍数、血中酸素飽和度など)と組み合わせることにより、より精度の高い排卵日予測が可能となると考えられる。今後大規模なデータを取得しビッグデータの解析、ディープラーニングなどを取り入れアルゴリズムを構築することにより、近い将来スマートウォッチで妊活が可能となると考えられるとしている。

これらの結果は、今後の概日リズム(体内時計)研究の発展に貢献するとともに、妊活以外にも女性特有の疾患の発症機構の解明やその治療や対策方法の考案に寄与するものと考えられる。今後も、概日リズムを基軸としたライフコースを通した心身の健康増進に貢献していく、と研究グループは述べている。

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