HPVワクチンの接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率は不明
大阪大学は7月17日、HPVワクチンの生まれ年度ごとの定期接種の累積接種率(全国値)を算出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の八木麻未特任助教(常勤)と上田豊講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」にオンライン掲載されている。
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HPVワクチンの施策は大きく変遷してきた。2010年度に公費助成開始が開始され、2013年度に定期接種化されたが、いわゆる副反応報道と厚労省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減し、事実上の停止状態となっていた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度から積極的勧奨が再開(同時にキャッチアップ接種が開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。
HPVワクチンの接種率について、厚労省が把握できているのは各年度の接種時年齢ごとの接種者数だけであり、施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率は示されていなかった。
生まれ年度により格差あり、積極的勧奨再開後も接種率回復せず
厚労省が把握できているのは各年度の接種時年齢ごとの接種者数だが、1つの接種時年齢は2つの生まれ年度の可能性がある(例:15歳は中学3年生と高校1年生の可能性がある)。そこで今回の研究では、これを生まれ年度(学年ごと)の接種者数に補正し、2022年度までの累積定期接種率を算出した。
その結果、公費助成で接種が進んだ接種世代(1994~1999年度生まれ)では53.31%~79.47%(平均71・96%)、積極的勧奨差し控えによって接種率が激減した停止世代(2000~2003年度生まれ)では0.84~14.04%(平均4.62%)、個別案内を受けた世代(2004~2009年度生まれ)では10.20~25.21%(平均16.16%)、積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、生まれ年度によって大きな格差が存在し、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が初めて明らかとなった。
国内の接種率43.16%で頭打ちに、WHOが設定した目標値の半分以下
さらに、2023年度以降も2022年度の接種状況が維持された場合、定期接種終了(高1終了)時までの累積接種率は、個別案内を受けた世代(2004~2009年度生まれ)では10.20~42.16%(平均28.83%)とやや上昇するも、それでも積極的勧奨再開に接した世代(2010年度以降生まれ)では43.16%で頭打ちとなることが判明。この値は、WHOが世界の子宮頸がん排除(罹患率:10万人あたり4人以下)のために設定した目標値90%の半分にも満たない。
HPVワクチン接種率上昇の取り組みに加え、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要
今回の研究によって全国の生まれ年度ごとの累積接種率が初めて明らかとなった。さらに、このままの接種状況が維持された場合の累積接種率は43.16%で頭打ちとなり、WHOの掲げる目標の半分にも満たないことが判明した。
日本においては、他の小児ワクチンの接種率やパンデミック下のCOVID-19ワクチンの接種率が世界的に見て高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白であることが改めて浮き彫りとなった。研究グループはこれまでに、低い接種率のままでは本来は予防できていたはずの子宮頸がんに罹患する人や命を落とす人が数多く出現することを予測してきた。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要だ。同研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となる。
「当研究では日本全国での接種率を扱ったが、地域ごとの解析はしていないため地域差は不明で、ワクチンの種類や接種開始時のHPVステータスも不明だ。しかし、予防できるはずであった子宮頸がんのリスクに曝されている生まれ年度の女性が存在することは厳然たる事実であり、報告内容が子宮頸がん対策の立案のために利用されることを願ってやまない」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学大学院医学系研究科・医学部 主要研究成果