全体の半数が原因不明の不育症、原因遺伝子も未解明
東京大学は7月17日、臨床的に原因が指摘できない不育症のゲノムワイド関連解析を行い、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域内のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子の遺伝子多型がその発症に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科遺伝情報学の曽根原究人助教(大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学招へい教員)、岡田随象教授(大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学教授、理化学研究所生命医科学研究センターチームリーダー)、名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科学の矢野好隆病院助教、杉浦真弓教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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不育症は「流産あるいは死産が2回以上ある状態」と定義され、日本国内では妊娠を望むカップルの5%が不育症に罹患している。主な原因として抗リン脂質抗体症候群、子宮奇形、夫婦の染色体転座が知られる一方で、これらの原因が特定できる症例は全体のおよそ半数に留まり、残りの半数は原因不明となっている。原因が不明なことは不育症の治療を進める上で障壁となるばかりでなく、罹患カップルの心理的負担にもつながり、その背景メカニズムの解明は生殖医療における重要な課題となっている。その重要性から、不育症の原因遺伝子を解明する試みは過去にもなされてきたが、多くの先行研究では研究参加者が少人数(200人未満)にとどまる上、罹患者の定義が統一されておらず、一貫性のある結果が得られない状況が続いていた。
女性患者1,728人含むGWAS実施、MHC領域内の遺伝子多型が関連と判明
今回、研究グループは、名古屋市立大学病院に通院する原因が指摘できない不育症女性患者1,728人から得られたゲノムデータと、バイオバンク・ジャパンが保有する2万4,315人の対照群女性から得られたゲノムデータを用いて、ゲノムワイド関連解析を実施し、不育症の発症と関連する遺伝子多型(rs9263738)をMHC領域内に同定した。さらにMHC領域内の詳細な疾患感受性遺伝子の解析(ファインマッピング)を実施したところ、HLA-C*12:02、HLAB*52:01、HLA-DRB1*15:02の複数のHLAアレルから構成される、MHC領域内の広範囲にわたって連鎖したHLAハプロタイプが不育症の発症に予防的な効果を示すことがわかった。
カドヘリン11遺伝子の機能欠損させるCNVも多く発見
また、研究グループは同じゲノムデータに基づき、ゲノム上に存在する大規模なCNV(コピー数変異)の検出を行った。特に遺伝子機能を欠損させるCNVに着目した解析を実施し、不育症患者では、細胞接着分子であるカドヘリン11(CDH11)遺伝子の機能を欠損させるCNVが多く見られることを突き止めた。
不育症の病態理解につながると期待
今回の研究では、不育症に関する過去の遺伝学研究では類を見ない規模の解析を行うことで、HLA遺伝子がその発症に関わることを解明した。妊娠は母体と胎児という別個体が共存する免疫学的に特異な状態であることから、自己と非自己の識別において中心的な役割を果たすHLA分子の妊娠維持機構における重要性はこれまでも議論されてきたが、今回の研究は大規模ヒトゲノム解析の面からそれを実証した。
「不育症の病態における生殖免疫学の重要性に論拠を与え、その病態の理解が大きく進むことが期待される。また、CNV解析により同定されたCDH11は栄養膜を子宮内膜に固定する役割を果たす分子であり、原因不明の不育症の病態の理解を進展させることが期待される」と、研究グループは述べている。
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