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マルチタスクにおける能力低下の原因となる「脳活動ネットワーク」を解明-明大ほか

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2024年07月22日 AM09:30

脳の前頭頭頂領域の皮質間でどのようなネットワークの働きがあるのかは不明だった

明治大学は7月17日、日常生活におけるマルチタスク状態や臨床での認知機能トレーニングにおいて生じる「2つのことを同時に行おうとしてうまくいかなくなる状態」(二重課題干渉:)に着目し、認知機能の維持・向上のエビデンス構築につながる神経メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大理工学部の小野弓絵教授と、北海道大学大学院保健科学研究院の澤村大輔教授、同大学院保健科学院博士後期課程 三浦拓氏の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「NeuroImage」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

認知と運動課題を同時に行う二重課題では、それぞれの課題を単独で行うことに比較して、課題遂行能力が低下することが知られており、この現象は二重課題干渉(DTi)と呼ばれる。これまでの神経画像研究ではDTiの神経基盤として脳の前頭頭頂領域の活動上昇が確認されてきたが、それらの皮質間でどのようなネットワークの働きが起きているのかについては不明だった。

実生活に近い環境下での二重課題遂行時の局所脳活動・脳ネットワークの確認に成功

研究グループは今回、高負荷の認知・運動二重課題によってDTiを誘発し、DTiの根底にある神経基盤を局所の脳活動および皮質間の神経ネットワークの変化より明らかにすることを目的として研究を行った。

対象は右利きの健康な若年成人34人とし、運動課題には利き手での螺旋描画課題、認知課題には数字の連続加算を行うpaced auditory serial addition test(PASAT)を採用した。また、今回の研究における特徴として、従来の歩行や姿勢制御課題ではなく、安全かつ汎用性の高い座位で実施可能な巧緻運動課題である螺旋描画課題を採用した。これらの課題は、先行研究において共通した両側の前頭頭頂領域の関与が確認されており、同時に課題を行った際には神経資源の競合が生じるものと推測された。測定環境はリハビリテーションへの応用可能性を見据え、より実生活に近い環境下で実施。この点も独創的な点と言える。

安全性、低拘束性、非侵襲性などの利点を持ち、実生活に近い環境下での脳活動計測が可能な近赤外線分光法(fNIRS)を用い、二重課題遂行時の局所脳活動および脳ネットワークを確認した。

認知-運動の二重課題遂行時にみられる能力低下に関わる脳活動ネットワークを発見

2つの課題を同時に行う場合(二重課題条件)では、認知、運動それぞれの課題を単独で行う場合(単一課題条件)と比較して認知および運動課題の両方の成績低下、いわゆるDTiが生じていることが確認された。また、二重課題条件では、先行研究の知見と同様に、右前頭葉の活動増加が確認され、さらに今回の研究では、右前頭領域から右頭頂領域への皮質間のネットワークの強さを表す機能的結合性の増加、特に前頭から頭頂へのトップダウン信号の増加が新たに発見された。

年齢別の認知機能水準を考慮した難易度設定が重要

また、二重課題条件と単一課題条件における前頭から頭頂へのトップダウン信号の変化とPASATの成績変化に有意な負の相関が示された。これらのことから、高齢者において顕著となるDTiおよびその神経基盤とされている前頭葉の活動が、高い認知負荷を伴う認知-運動二重課題実施時には若年者でも同様に生じることを示し、年齢別の認知機能水準を考慮した難易度設定の重要性を浮き彫りにするものであると考えられた。

さらに、同研究で発見した二重課題干渉に関連する右前頭から右頭頂皮質へのトップダウン信号の増加は、二重課題遂行時の過剰な認知負荷がかかっていること(マルチタスクで頭がパンクしそうな時の脳活動)を示すバイオマーカーである可能性が示唆された。

二重課題干渉の脳内メカニズム理解、マルチタスクトレーニングの新たな可能性に期待

今回の研究で得られた知見は、DTiとその根底にある神経メカニズムとしての脳内ネットワークの重要性を強調するものであり、さらなる神経基盤の理解につながるものと考えられる。「また、個人の認知機能に応じた認知・運動二重課題を用いたトレーニングの提供や認知機能低下を伴う比較的若年の精神疾患や脳疾患患者におけるトレーニングの臨床応用につながることが期待される」と研究グループは述べている。

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