統合失調症患者の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造の関連は?
東京都医学総合研究所は3月20日、統合失調症患者では血漿のホモシステイン濃度が大脳白質の微細な構造異常に関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所統合失調症プロジェクトの田畑光一非常勤研究員、新井誠プロジェクトリーダーら、京都大学医学部附属病院精神科神経科の孫樹洛 研究員、村井俊哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenina」にオンライン掲載されている。
近年、血漿ホモシステイン濃度の増加が統合失調症の発症リスクや重症度に関連することが報告されている。また、動物や細胞を用いた基礎研究では、ホモシステインは酸化ストレスや炎症を促進して大脳白質を障害することがわかっている。他方、MRI拡散強調画像を用いた大規模な解析により、統合失調症患者における大脳白質の微細な構造異常が報告されている。しかし、統合失調症患者の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造の関連についてはわかっていなかった。
統合失調症群、血漿ホモシステイン濃度増加が平均FA値低下に有意に関連
今回、京都大学精神科神経科と共同で、統合失調症患者53人、健常者83人を対象に研究を実施。採血にて血漿ホモシステイン濃度を測定し、同日にMRIの撮像とPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale、陽性・陰性症状評価尺度)による症状評価を行った。MRI拡散強調画像を用いたTBSS解析により、健常者群と比べて患者群でFA値(Fractional Anisotropy、異方性比率)が有意に低下している脳領域の探索を行った。解析の結果、患者群では大脳白質の広範囲でFA値が有意に低下しており、この結果は先行研究と一致していた。
次に、患者群と健常者群でFA値が有意に異なった脳領域の平均FA値を算出し、この値が血漿ホモシステイン濃度と関連するかどうか解析した。解析の結果、患者群では、血漿ホモシステイン濃度の増加が平均FA値の低下に有意に関連していた。一方、健常者群ではこのような関連が見られなかった。また、患者群で血漿ホモシステイン濃度とPANSSスコアとの関連を解析。その結果、総合スコア、下位尺度の一つである総合精神病理尺度スコアと有意な正の相関が見られ、この結果は先行研究と一致していた。
ホモシステイン血症治療薬が新規治療となる可能性、今後より詳細な研究へ
今回の研究では、統合失調症患者では血漿ホモシステイン濃度の増加がFA値の低下に関連することを世界で初めて報告した。健常者ではこの関連が見られなかったことから、統合失調症ではホモシステインが大脳白質の微細な構造異常に関与しており、このことが病態生理メカニズムの一つである可能性が示唆された。高ホモシステイン血症治療薬でベタインが統合失調症症状を実際に改善したという報告もあり、今回の発見は、既存の向精神薬とは異なる作用機序を持つ新たな治療薬の開発に寄与すると考えられる。
今回の研究では、あくまで一時点での統合失調症の血漿ホモシステイン濃度と大脳白質の微細構造との関連を示した。今後は縦断的な研究を行うことにより、血漿ホモシステイン濃度の増加が大脳白質の構造異常を実際に引き起こし、それが統合失調症の発症や臨床的転帰に関与するかどうか等、より詳細な検討を行う必要がある、と研究グループは述べている。
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・東京都医学総合研究所 プレスリリース