乳房外パジェット病で、なぜ薬剤耐性がつくのかは不明だった
北海道大学は7月12日、乳房外パジェット病の薬剤耐性モデルを樹立したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の柳輝希客員研究員(現 琉球大学大学院医学研究科准教授)および氏家英之教授、慶應義塾大学医学部の舩越建准教授、西原広史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Cancer」にオンライン掲載されている。
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乳房外パジェット病は外陰部や肛門周囲に発生する皮膚がんで、進行すると治療抵抗性で死に至る疾患だ。高齢者に好発し、発症頻度は10万人あたり0.6人と低いながらも、日本や欧米などでは近年増加傾向にある。これまで乳房外パジェット病に対して、いろいろな治療法が試されており、その中の一つに抗HER2(ハーツー)療法がある。
乳がんや乳房外パジェット病において、細胞の増殖に関係するHER2タンパク質が増えたりした場合には、抗がん剤として用いられるトラスツズマブという抗体を用いた抗HER2療法という治療法が有効だ。ただし、この治療は、さまざまながんで徐々に薬剤の効果が弱くなる(=薬剤耐性)ことがわかっている。しかし、乳房外パジェット病は珍しい皮膚がんであるため、どうして薬剤耐性がつくのか、その仕組みは明らかになっていなかった。
トラスツズマブ無効/有効な腫瘍での遺伝子変化を網羅的に比較
研究グループは今回、トラスツズマブの効かない乳房外パジェット病の腫瘍モデルの作製を試みた。まず、乳房外パジェット病患者のリンパ節転移部分のうち、診断に使用する部分以外の余剰組織を数ミリ角に分割し、免疫不全マウスの皮下に移植した。樹立できた腫瘍組織の病理学的解析・遺伝子変異検索・トラスツズマブによる治療実験を行うと、この腫瘍がトラスツズマブ投与で縮小することが明らかになった。
トラスツズマブ無効な腫瘍のPTEN遺伝子に、機能喪失変異を発見
この腫瘍組織に、通常の治療量よりも少ない量のトラスツズマブを長期間投与することによって、トラスツズマブの効かない(トラスツズマブ耐性)乳房外パジェット病腫瘍を作製した。そして、上記の方法で作製したトラスツズマブの効かない腫瘍と、効く腫瘍の遺伝子の変化を、網羅的な遺伝子変異検索という手法で比較した。その結果、トラスツズマブの効かない腫瘍ではPTENという遺伝子にその機能が失われる変異が加わっており、それがトラスツズマブ耐性の仕組みに関与していると考えられた。
次に、この樹立できたトラスツズマブ耐性乳房外パジェット病の腫瘍組織に対してさまざまな抗がん剤治療を試した。すると、乳がんに対する化学療法剤の数種類を用いたところ、複数の薬剤で腫瘍の顕著な縮小が確認できた。
抗がん剤に対する薬剤耐性機構解明の糸口、新規治療法開発につながる可能性
これまで、乳房外パジェット病の薬剤耐性モデルは樹立できておらず、病態解明・新規治療法の開発などは困難だった。今回、研究グループが作製した新規腫瘍モデルにより、乳房外パジェット病がどのように薬剤耐性を得ていくか、その一端が明らかとなった。
「これにより、乳房外パジェット病に留まらず、他の症例においても抗がん剤に対する薬剤耐性機構が解明できる糸口となるだけでなく、新規治療法開発においても有用であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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