日本の若者ヤングケアラー、継続的な追跡調査はなかった
東京都医学総合研究所は7月10日、思春期に長期に渡ってヤングケアラーの状態が続くと、精神的な不調を抱えるリスクが高まることを確認したと発表した。この研究は、同研究所社会健康医学研究センターのダニエル・スタンヨン研究員(現:英国ロンドン大学キングスカレッジ)、西田淳志センター長、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の笠井清登教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、安藤俊太郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Adolescent Health」に掲載されている。
これまでの研究から、親や祖父母、病気の親戚のケアをしているヤングケアラー状態にある若者は、そうではない若者よりも精神的な不調を抱えやすいことがわかっている。しかし、ケアをしている期間の長さによって、そのリスクが変わるかどうかはわかっていない。これまでの研究は、ヤングケアラー状態を1時点だけで捉えた研究がほとんどであり、特に、日本の若者を対象にした継続的な追跡調査は行われていなかった。
東京の3,171人でケア期間と精神的不調との関連を検証、10歳から2年おき4回調査
そこで今回の研究では、思春期児童を対象とした大規模追跡調査(東京ティーンコホート調査)のデータを用いて、10~16歳の間に4回にわたってヤングケアラーに関する調査を行い、ケアの期間と精神的不調との関連を検証した。具体的には、東京都内在住の2002~2004年に生まれた思春期児童3,171人に対して、10歳、12歳、14歳、16歳の4時点に実施した追跡調査の結果を分析した。各時点で、毎日もしくはほぼ毎日家族の中の高齢者、病気を持つ人、または体の不自由な人の世話をしている児童を「ヤングケアラー」と分類。また、2時点で連続してヤングケアラーに当てはまる児童を「長期ヤングケアラー」、1時点目は当てはまらず、2時点目で新たにヤングケアラーに当てはまった場合を「短期ヤングケアラー」、その反対を「元ヤングケアラー」、どちらの時点にも当てはまらない場合を「ヤングケアラーでない」と分類した。この4つのヤングケアラー分類と3つのメンタルヘルス指標(抑うつ・自傷行為・希死念慮)の関係を、性別、親の年収、家族構成、親の精神的不調の影響を取り除くよう統計学的に調整した上で分析した。
長期ヤングケアラー児童、14歳・抑うつ2.49倍、16歳・自傷行為2.51倍/希死念慮2.06倍
分析の結果、精神的不調を抱えるリスクが特に長期ヤングケアラーで高いことがわかった。一方、短期ヤングケアラーはどの年齢においてもメンタルヘルス不調との関連は見られなかった。長期ヤングケアラーに当たる児童では、ヤングケアラーではない児童と比べて、14歳時点の抑うつが2.49倍、16歳時点の自分を傷つける行為(自傷行為)が2.51倍、死にたくなる気持ち(希死念慮)が2.06倍増加していた。
少子高齢化が進む日本、増える若者の負担を減らす支援が重要
少子高齢化が進む日本では、今後家庭内でのインフォーマルなケアを担う若者にかかる負担が増えることが予測される。思春期は心身の成長や社会関係の発達に重要な時期であるため、インフォーマルケアの負担が長期化しないよう、学校や公的機関が彼らに早い段階で気づき、その負担を減らすように支援をすることが重要と考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース