■数年ぶり薬剤師応募も
東北大学病院薬剤部は、宮城県北部の気仙沼市立病院薬剤科に薬剤師1人を10カ月間派遣し、同院薬剤科での薬剤管理指導料の算定件数が出向前後の6カ月平均で約1.8倍に増加する成果を出した。出向薬剤師が調剤業務を中心に支援し、出向先病院の薬剤師が病棟業務に従事する機会も増やした。薬剤師採用も支援し、気仙沼市立病院薬剤科の公式SNSを開設するなど広報活動を充実させた結果、今年度は数年ぶりに薬剤師の応募があったという。第8次医療計画で基幹病院から地方病院への薬剤師派遣を検討する都道府県がある中、東北大病院の事例は大きな弾みとなりそうだ。
宮城県では、昨年度に薬剤師確保事業の一環の「病院薬剤師出向・体制整備支援事業」を開始し、東北大病院薬剤部の薬剤師が昨年6月から今年3月まで地域の自治体病院である気仙沼市立病院に出向していた。
気仙沼市立病院は、調剤室で自動化・機械化を進める一方、病棟業務では薬剤師のマンパワー不足で人が出せない状況に直面していた。今回の支援モデルでは、出向薬剤師に気仙沼市立病院での調剤業務を支援してもらい、マンパワーの補充で気仙沼市立病院の薬剤師が病棟業務に従事する機会を増やせるよう取り組んだ結果、薬剤管理指導料の算定件数が出向前の6カ月平均186.3件から出向後には339.8件に大きく増加した。退院時薬剤管理指導料の算定件数は14.7件から51.2件、麻薬管理指導加算は11.5件から18.7件に増加した。
出向薬剤師1人分の人員増強だけではなく、業務の標準化に着手したことも病棟業務強化に結びついた。薬剤管理指導件数の増加に向け、薬剤管理指導記録作成の効率化を目的としたテンプレートを作成し、病棟業務での利用を開始。患者1人当たりの指導時間は14.0分から15.5分に増えたほか、指導記録作成時間は26.3分から16.9分、病棟業務以外の時間は115分から59.8分に短縮した。
一方、気仙沼市内の薬局との地域連携支援では、東北大病院と気仙沼市立病院が癌化学療法連携研修会を合同で開催。地域の薬局薬剤師など55人が参加し、これまで癌化学療法に関連するトレーシングレポートが0件だったのが、研修会開催後の4カ月間で4件の実績ができた。
気仙沼市立病院薬剤科の村上由恵科長は、「薬剤師の出向後は患者さんとのやりとりや医師とのコミュニケーションを増やすことができた。病棟業務担当の薬剤師も、それぞれのやり方で指導を行うのではなく、出向薬剤師から病棟業務を学ぶことができ、業務の質向上を図ることができた」と喜ぶ。
今後は急性期病棟だけではなく回復期病棟にも担当薬剤師を配置させたい考えで、「いずれは病棟薬剤業務実施加算を算定できるようにしたい」と目標を語る。
一方、地方病院が苦戦する薬剤師採用でも大学病院との連携を通じて、将来への明るい兆しが見えてきた。気仙沼市立病院は充実した職場環境や奨学金支援制度などを持つ一方、認知度の低さなどもあり、募集をかけても応募が全く来ない状況だった。薬剤師募集のポスターや薬剤科を紹介するパンフレットの作成、薬剤科公式SNSを開設するなど広報活動の強化策により、今年度は薬剤師からの応募があった。
出向薬剤師にとっても地域病院での業務経験は視野を広げる機会になり、出向元施設にも人材育成面でメリットがある。東北大病院薬剤部は、6月の診療報酬改定で新設された薬剤業務向上加算を算定済み。今年度も薬剤師出向事業を継続し、新たな薬剤師が気仙沼市立病院で働いている。