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GVHD悪化に関わる腸内細菌同定、抑制できる溶菌酵素も特定-大阪公立大ほか

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2024年07月17日 AM09:10

造血幹細胞移植患者の「」悪化にE. faecalisが関与?

大阪公立大学は7月5日、毒性の強い腸内細菌が造血幹細胞移植の重篤な合併症を引き起こすことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科ゲノム免疫学の植松智教授(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターメタゲノム医学分野特任教授を兼任)、藤本康介准教授(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターメタゲノム医学分野特任准教授を兼任)らと、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ゲノム解析技術の進歩に伴って常在微生物叢解析が盛んに行われるようになり、近年では疾患の発症と直接的に関わる腸内共生病原菌も発見されている。疾患の発症予防のため、腸内共生病原菌の除菌が期待されているが、抗菌薬の使用は有益菌も殺傷し腸内細菌の乱れを助長する可能性があるため、腸内共生病原菌だけを特異的に排除できる方法が求められている。腸管内には細菌よりはるかに多い数のウイルスが存在している。この常在腸内ウイルスはノロウイルスのようにヒトの細胞に感染するのではなく、腸内細菌を宿主とするバクテリオファージ(ファージ)が主となる。ファージは宿主細菌を溶菌する作用を持っており、ファージ療法は腸内共生病原菌を制御するための有効な方法の一つと考えられている。

研究グループはこれまでに、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータ「SHIROKANE」を用いて腸内細菌叢と腸内ウイルス叢のメタゲノム解析パイプラインの構築を行い、世界に先駆けて健常者の糞便における細菌叢とウイルス叢のメタゲノムデータベースを作成した。同解析手法により、細菌やファージの培養が不可能な場合でも感染関係を同定することができる。また、ファージが有する溶菌酵素の網羅的な探索も可能だ。これまで同種造血幹細胞移植患者の大規模な糞便解析により、移植後にエンテロコッカス属の細菌が増加し、腸管内でエンテロコッカス属の細菌を多く持つ人は、GVHDに関連した死亡率が増加することが報告されている。エンテロコッカス属の中でも特に「E. faecalis」がGVHDの増悪に関与しており、治療標的と考えられていた。

毒性の強いE. faecalisが検出された患者は、有意にGVHDを発症

研究グループは、大阪公立大学医学部附属病院血液内科・造血細胞移植科に入院中の46人の同種造血幹細胞移植患者の経時的な糞便解析を行い、30人の糞便中にエンテロコッカス属の細菌が増加していることを確認した。糞便からエンテロコッカス属の細菌を単離して詳細に調べたところ、サイトライシンを持つ毒性の強い「E. faecalis」が見つかった。さらに、この毒性の強いE. faecalisが検出された患者は、有意にGVHDを発症していることが明らかになった。

さらに、単離した毒性の強いE. faecalisのメタゲノム解析を行ったところ、バイオフィルムに関連する遺伝子が有意に検出された。同研究で単離したE. faecalisはいずれも薬剤耐性株ではなかったことから、腸管内でバイオフィルムを形成し、移植治療の過程で投与された抗菌薬から逃れて生存したものと考えられた。

エンドライシン投与で、モデルマウスのGVHD悪化抑制/生存率回復

次に、E. faecalisのメタゲノムデータからE. faecalisを宿主とするファージを探索してファージ由来の溶菌酵素配列を同定し、エンドライシンを精製した。このエンドライシンはE. faecalisを溶菌するものの、・フェシウム(E. faecium)や大腸菌などの他の腸内細菌には溶菌活性を持たず、E. faecalis特異的と考えられた。また、E. faecalisのバイオフィルムに対する効果を検討したところ、試験管内試験だけでなく、生体内試験でもバイオフィルムを溶解することが明らかとなった。

さらに毒性の強いE. faecalisを定着させたノトバイオートマウスを作成し、GVHDを誘導したところ、サイトライシンを持たないE. faecalisやE. faeciumを定着させたノトバイオートマウスと比較して、有意に生存率が悪化することが判明。また、エンドライシンを投与すると、生存率が回復することがわかった。

最後に、毒性の強いE. faecalisを含む患者糞便を無菌マウスに移植しGVHDを誘導したところ、エンドライシンの投与とともに腸管内の毒性の強いE. faecalisが減少し、エンドライシンを投与した群では有意に生存率が伸びることが明らかになった。

GVHD治療薬の開発、E. faecalisに起因する感染症への応用に期待

同種造血幹細胞移植は治療効果の高い治療法だがGVHDなどの重篤な合併症のリスクがある。今回の研究成果により、同種移植患者の腸内では毒性の強いE. faecalisが増加し、それによってGVHDの病態が悪くなりやすいことが明らかにされた。さらに、E. faecalisに特異的な溶菌酵素エンドライシンが同定され、生体内でのその有効性が示された。

「今後E. faecalis特異的なファージ由来のエンドライシンを用いたGVHDに対する治療薬の開発が進むとともに、GVHDに対する新たな治療技術としての貢献が強く期待される。また、E. faecalisに起因する感染症(心内膜炎、尿路感染症、前立腺炎、腹腔内感染症、蜂窩織炎など)への応用も強く期待される」と、研究グループは述べている。

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