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神経変性疾患、痛風治療薬が脳のエネルギー枯渇防ぎ細胞を保護-東京薬科大ほか

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2024年07月16日 AM09:10

認知症発症リスク低いとされる高尿酸血症、詳細なメカニズムは不明

東京薬科大学は7月9日、ヒトの脳におけるプリンサルベージ経路の重要性を明らかにし、その活性を増強させる方法を見出したと発表した。この研究は、同大薬学部の関根舞助教、市田公美名誉教授(前教授)、東京大学大学院農学生命科学研究科の永田宏次教授、岡本研特任研究員、カリフォルニア大学のRuss Hille教授、日本医科大学の藤原めぐみ助教、西野武士名誉教授(研究主宰者)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトにおけるプリン異化の最終産物である尿酸は、キサンチン酸化還元酵素(XOR)が触媒するヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸への2段階反応を経て生成される。血中尿酸値は尿酸の産生と排泄のバランスによって維持されており、その変動は遺伝、食事、生活習慣など多くの因子の影響を受けている。高尿酸血症は痛風や腎臓病、心血管疾患の危険因子である一方、疫学的研究により、、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患のリスクを低下させ、神経可塑性や認知機能に有益であることが示唆されていた。神経変性疾患の病態には酸化ストレスが関与しており、尿酸の強い抗酸化作用はこれら疾患のリスク低減のメカニズムとして考えられてきた。また、低尿酸血症と神経変性疾患リスク上昇との関連は、低い血中尿酸値による抗酸化能の低下によるものと考えられている。しかし、現在までのところ、ヒトの脳中尿酸値と神経変性疾患との関連性についてのデータはなかった。

また、XORの酸化型(XO)は活性酸素種(ROS)の主要な供給源であると考えられており、虚血再灌流障害などの機序に関与しているとされてきた。そのため、アロプリノールやフェブキソスタットなどのXOR阻害薬は活性酸素を除去することで組織保護作用を発揮すると提唱されてきたが、尿酸生成も抑制するため、そのメカニズムは一貫しているとは言えない。

脳組織、XOR発現なく尿酸少ないがプリンサルベージ経路に必要なHPRT発現は高

今回、ヒト脳組織を用いてXORの発現、生成物および活性を調べたところ、脳のさまざまな領域でXOR発現がなく、尿酸も総プリン体のうち約1%と少ないことが明らかになった。また、生理的にはXORの脱水素酵素(XDH)からXOへの変換に必須とされるラクトペルオキシダーゼ(LPO)の発現も認められなかった。これらの結果は、尿酸が生物学的に必須な抗酸化物質であるという長年信じられてきた見解に疑問を投げかけている。その一方で、プリンサルベージ経路の中心的な酵素であるヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)の発現は脳で高く、ヒポキサンチンが顕著に蓄積していることを確認した。脳細胞ではXORがなくHPRTが高いことはプリンサルベージ経路に利用できるヒポキサンチンを保つため、大量のエネルギーを必要とする脳において高い意義を持つと考えられる。

、de novo経路よりも脳におけるATP合成に重要

Lesch-Nyhan症候群(HPRT欠損症)ではHPRTの活性低下が強い場合、幼少児から脳の強度萎縮が見られるが、弱い症例では脳萎縮とともにタウタンパク質の蓄積が文献的に報告されている。研究グループは脳におけるプリンサルベージ経路の重要性を明らかにするために、ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞を導入した。安定同位体分析の結果、プリンサルベージ経路はプリンde novo経路よりもATP合成に有効であることが示された。

ストレスなどで消費されるATP、総アデニル酸レベル低下し細胞損傷

ATPは細胞内プリン体の主体であり、過剰な運動、飲酒、ストレス、病的な状態などでは急速かつ大量に消費される。持続的なストレスによりプリン体分解が継続すると、主にヒポキサンチンとして細胞外へ放出され、細胞内の総アデニル酸(ATP+ADP+AMP)は減少する。プリンde novo経路は多量のATPを使用するため、エネルギー枯渇を速める。失われた分が補充されなければ細胞損傷が起こり、極端な場合には細胞死に至る可能性がある。従って、総アデニル酸レベルを維持するためには、早期のストレス緩和が必要である。

XOR阻害薬、尿酸までの反応阻害し神経細胞のプリンサルベージにつながると示唆

ストレス条件下において、XORの存在はヒポキサンチンのサルベージが起こる前にヒポキサンチンを再利用不能な尿酸として細胞外に放出させ、細胞内の総アデニル酸を減少させた。・痛風治療薬であるXOR阻害薬は総アデニル酸のさらなる減少を防ぐことにより、細胞保護効果をもたらした。またXOR阻害薬は、XORが存在するさまざまな臓器においてヒポキサンチンから尿酸までの反応の阻害により、細胞外ヒポキサンチンレベルの上昇に関連している。ヒポキサンチンは血液脳関門を通過することができるので、神経細胞に取り込まれサルベージされると考えられる。

ヒポキサンチン添加とPRPP補充でプリンサルベージ増強を確認

ヒトiPS細胞由来神経細胞のメタボローム解析の結果から、ヒポキサンチン添加によってサルベージが観察されたが、PRPPの枯渇によりATP増強効果は限定的であることが示された。そこでペントースリン酸経路の前駆体を添加したところ、ヒポキサンチンの取り込みが促進されることを確認し、PRPPの補充によるプリンサルベージの増強が示唆された。また、細胞内の総アデニル酸レベルがほぼ飽和レベルまで上昇することが確認できた。

エネルギー枯渇や虚血を病態とする疾患の新たな治療戦略にもつながると期待

プリンサルベージ経路とde novo経路のバランスの不均衡が認められる疾患(Lesch-Nyhan症候群、ダウン症など)では、アルツハイマー病に類似した病理所見が観察される。総アデニル酸の減少はさまざまな生命活動に影響を与えるが、その中でもATP依存性のユビキチンープロテアソーム経路による異常タンパク質の分解を妨げ、細胞内蓄積を促進する可能性がある。従って、ATPレベルを維持することが神経保護につながると考えられる。総アデニル酸プールは尿酸値に影響するため、これまでの疫学的研究に基づく高尿酸血症と神経保護との関係は、上流の総アデニル酸プールの存在を反映している可能性がある。また、低尿酸血症は総アデニル酸プールの減少を表し、その背景には低栄養、低酸素症や虚血などの病的状態、加齢に伴うさまざまな機能低下などがある可能性がある。

今回の研究では、XOR阻害薬、、ペントースの同時投与により、ATPをほぼ飽和レベルまで上昇させることができることを示した。「この新たな戦略は神経変性疾患や、エネルギー枯渇や虚血を病態とする疾患の治療に有効な可能性がある」と、研究グループは述べている。

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