AR内で複数人と行う運動が、気分状態やオキシトシン分泌に及ぼす影響は?
群馬大学は7月8日、拡張現実(AR)技術を用いて複数人とともに行う自転車運動が、健康な大学生の抑うつ気分を低減、唾液中オキシトシン濃度を増加させることを見出したと発表した。この研究は、同大共同教育学部の島孟留准教授と、宇都宮大学共同教育学部の松浦佑希准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Physiology & Behavior」オンライン版に掲載されている。
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運動の心理的な側面への効果については、個人スポーツに比べてチームスポーツで高い可能性があり、良好な対人関係形成に資するオキシトシンに媒介される可能性が示されている。近年目覚ましい発展を遂げているクロスリアリティ技術(現実世界と仮想空間の融合)のうち、ヘッドマウントディスプレイがなくても利用可能なAR技術は、運動・スポーツとの親和性が高いと考えられる。
研究グループは今回、同技術を用いることで孤独な運動を多人数での運動のように変えられれば、現実世界にて1人で行う運動であってもチームスポーツのような心理的な側面への高い効果を得られる運動様式になるのではないかと想定し、AR内で複数人と行う運動が気分状態やオキシトシン分泌に及ぼす影響を検証した。
Ex+AR条件でのみ、被験者の「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」が低減
研究では、14人の健康な大学生に「運動なし(Rest)」「1人での自転車運動(Ex)」「AR内での自転車運動(Ex+AR)」の3つの条件を課した。両運動条件(ExとEx+AR)においては、被験者に低強度(主観的運動強度“10”に維持)の自己ペースにて、実験室内で単独で行う運動を課した。Ex条件では、被験者の眼前に裏返したタブレットを設置。Ex+AR条件では、SmarT Turbo KAGURA(LST9200、株式会社ミノウラ)とROUVYアプリケーション(VirtualTraining Co.)を用いて、被験者のアバターと他のアバターが10人投影されたタブレット画面を見ながらの自転車運動を被験者に課した。各条件を10分間課す前と直後に被験者の気分状態(POMS2)と唾液中オキシトシン濃度を評価した。
その結果、Ex+AR条件でのみ、被験者の「抑うつ-落込み」の気分状態が有意に低減し、「怒り-敵意」の気分状態やネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD得点」が低減する傾向を示した。
Ex+AR条件でのみ、被験者の唾液中オキシトシン濃度が有意に増加
さらにEx+AR条件でのみ、被験者の唾液中オキシトシン濃度が有意に増加し、Ex条件では増加する傾向を示した。一方で、唾液中オキシトシンの変化と気分状態の変化の関係はみられなかった。以上の結果から、同研究で検証したEx+AR条件が気分やオキシトシン分泌を高める上で有効な運動様式となりうることが示唆された。
Ex+AR条件の効果で、孤独を癒やす運動様式の開発・発展に期待
今回の研究成果により、Ex+AR条件が気分やオキシトシン分泌を高めることが見出された。「今後、本研究成果を足がかりとして、オキシトシンが関わる社会的相互作用や共感性に及ぼすEx+AR条件の効果を検証することで、孤独を癒やす運動様式の開発・発展が期待される」と、研究グループは述べている。
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