CD4・CD8どちらも発現しないDNT細胞、がん組織内での機能は不明
国立医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は7月5日、大腸がんの組織において、CD4分子もCD8分子も、共に発現していないCD4-CD8-ダブルネガティブT細胞(DNT細胞)が多く存在することを見出し、DNT細胞が免疫細胞のがん細胞に対する攻撃を抑えている可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所難病・免疫ゲノム研究プロジェクトの清谷一馬プロジェクトリーダー、がん研究会がんプレシジョン医療研究センター、有明病院消化器外科らの研究グループによるもの。研究成果は、「OncoImmunology」に掲載されている。
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近年、がんにおける免疫(主にT細胞による免疫)の重要性が明らかになってきており、T細胞はがん細胞の目印となるがん特異的な抗原を認識し、がん細胞を攻撃することがわかっている。従って、がん組織内に入り込んでいるT細胞(腫瘍浸潤T細胞)が多いがんほど、免疫療法の効果が高く、予後が良いことが知られている。T細胞にはいくつかの種類が存在し、ほとんどのT細胞が、CD4分子もしくはCD8分子のいずれかを発現し、CD4+T細胞または、CD8+T細胞として機能している。CD4分子もCD8分子も発現していないDNT細胞は血液や正常組織には非常に少ない割合でしか存在しない細胞であり、がん組織内におけるその機能についてはほとんどわかっていなかった。
DNT細胞、大腸がん組織に多く存在しT細胞受容体はCD8+T細胞と共通
研究グループは、大腸がん患者のがん組織および免疫器官のひとつであるリンパ節を利用して、大腸がん組織におけるDNT細胞の働きなどを解析した。
その結果、リンパ節と比べて、大腸がん組織内にはDNT細胞が有意に多く存在することが明らかになった。この大腸がん組織検体を用いて、各種細胞のT細胞受容体シーケンス解析を行った結果、DNT細胞は、CD8+T細胞と共通のT細胞受容体を持っていることから、CD8+T細胞に由来していることが示唆された。
CD8+T細胞に類似するが、がんを攻撃する細胞傷害活性は持たないと判明
CD8+T細胞およびDNT細胞のシングルセルRNA解析によって、DNT細胞は、ある種のCD8+T細胞に類似しているが、グランザイムBやパーフォリンなどの細胞傷害活性(がん細胞などを破壊する働き)を有する物質に関する遺伝子の発現が非常に低いことから、細胞を攻撃する機能を欠いていることが示された。さらに、がん組織内のT細胞浸潤が少ないがん組織ほど、DNT細胞の割合が高いことが明らかになった。
これらのことから、DNT細胞は、がん組織内においてがん細胞を攻撃する免疫を抑える因子として機能する可能性が示唆された。「今後、DNT細胞を標的とした新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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