胸部X線撮影だけで肺機能も推定できれば、検査の効率化につながる
大阪公立大学は7月9日、胸部X線写真から肺機能を高精度で推定可能な人工知能(AI)モデルを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科人工知能学の植田大樹准教授、放射線診断学・IVR学の三木幸雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Digital Health」オンライン速報版に掲載されている。
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肺機能検査は呼吸器疾患の診断や重症度評価に不可欠だが、検査の実施には患者の協力が必要であり、高齢者、認知症患者、小児など、指示を理解することが難しい場合には正確な評価が困難だ。また、新型コロナウイルス感染症の流行により、感染リスクを避けるために検査の実施が制限される場合もある。一方、胸部X線写真は最も基本的な検査の一つであり、X線撮影だけで肺機能も推定できれば、検査の効率化につながる。しかし、これまで胸部X線写真から肺機能を推定する試みはほとんどなされていなかった。
胸部X線写真14万1,734枚でAIモデルの訓練・検証
今回の研究では、2003~2021年までの間に収集した14万1,734枚の胸部X線写真を用いて、3施設でAIモデルの訓練・検証を、2施設で外部テストをそれぞれ実施。外部テストでは、機能評価の重要な指標である努力性肺活量と1秒量について、肺機能検査(スパイロメトリー)の測定結果とAIモデルの推定値を比較した。
肺機能検査の測定結果と非常に高い一致率
その結果、努力性肺活量ではピアソンの相関係数(R)で0.91と0.90、平均絶対誤差(MAE)で0.31と0.31だった。また、1秒量では、Rで0.90と0.90、MAEで0.28と0.25と、いずれも肺機能検査の測定結果と非常に高い一致率を示した。
同研究成果により、胸部X線写真という静的な情報から、本来は動的な検査(スパイロメトリーなど)によって評価される肺機能を高精度に推定できる。また、X線撮影のみで肺機能の情報も得られるため、検査の効率化にもつながると考えられる。
肺機能検査の実施困難な患者へ肺機能評価の選択肢拡大に期待
今回の研究で開発したAIモデルは、胸部X線写真から肺機能を高精度に推定できる可能性を世界で初めて示すもの。肺機能検査の実施が困難な患者に対する、肺機能評価の選択肢が広がることが期待される。これにより、呼吸器疾患のより適切な診断と管理が可能となり患者の予後改善にもつながる可能性がある。また、同モデルを用いることで、胸部X線撮影のみで肺機能の情報も得られるため、検査項目の縮小による患者負担の軽減や、医療コストの削減なども期待される。今後は、同モデルの一般化性能のさらなる検証や、実臨床での有用性の評価に向け、異なる集団や環境下での性能を確認するとともに、実際の診療で使用した際の効果や影響を慎重に見極めていく必要がある。将来的には呼吸器疾患の診療に広く活用されることを目指す、と研究グループは述べている。
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