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ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート移植、拒絶免疫誘導の仕組み解明-順大ほか

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2024年07月11日 AM09:00

移植時に免疫抑制剤投与、代謝性疾患増悪で治療効果に懸念

順天堂大学は7月4日、新たなヒト免疫マウスモデルを用いて、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPS-CM)シート移植ではCD8陽性T細胞主体的に免疫拒絶が誘導されることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大健康総合科学先端研究機構免疫治療研究センターの松本龍大学院生、内田浩一郎副センター長、竹田和由副センター長、奥村康センター長、大阪大学大学院心臓血管外科の宮川繁教授、澤芳樹名誉教授らの研究グループによるもの。掲載結果は、「The Journal of Heart and Lung Transplantation」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

他家iPS細胞を用いた再生医療は、難治性疾患に対する新たな治療法として大きく注目されている。共同研究者の宮川教授、澤名誉教授らの研究グループは、他家iPS細胞由来の心筋細胞を開発し、独自の技術でシート(hiPS-CMシート)を作成し、虚血により重度心不全に陥った心臓表面に移植することで、心機能が改善することを報告している。

他家iPS細胞は、生体内では異物と認識され、それを排除するよう免疫反応が誘導される。それらを適切に制御するためには、hiPS-CMシート移植独自の免疫抑制戦略が不可欠である。これまでヒト白血球抗原(:human leukocyte antigen)を適合させたiPS細胞株など、免疫反応が起きにくい細胞株の開発が精力的に行われてきた。しかしHLAを適合しても、すべての免疫反応を制御できるわけではない。hiPS-CMシート移植後に生体内では、どの細胞が、どのような免疫反応を引き起こすのか、その詳細なメカニズムは十分にわかっておらず、最適な免疫抑制戦略構築に向けた大きな課題だった。

hiPS-CMシート移植では、これまでの非ヒト霊長類の研究結果から、心臓移植に準じた複数の免疫抑制剤(タクロリスム、ミコフェノール酸モフェチル、およびステロイド)が投与されている。しかし長期間の免疫抑制剤使用に伴う、腎機能障害や糖尿病などの代謝性疾患が増悪し、結果として原疾患の病態も悪化することでhiPS-CMシート移植による治療効果が十分に得られない可能性も懸念されていた。

ヒト免疫を部分再現したマウス、hiPS-CMシート移植後17~24日で完全に移植片が消失

今回研究グループは、ヒトの免疫反応を部分的に再現可能なマウスモデルを構築し、hiPS-CMシート移植におけるヒトの免疫反応を解析する研究を行った。まず、in vitroでhiPS-CMはどのような免疫反応を誘導するのかを評価した。hiPS-CMと健常人のヒト末梢血単核球細胞を4日間混合培養し、培養後のヒト末梢血単核球細胞をフローサイトメトリーで解析し、どの細胞がhiPS-CMに反応するのか解析した。hiPS-CMはHLA-class I のみ発現しており、ヒト末梢血単核球細胞のうちCD8陽性T細胞が活性化する程度で、誘導される免疫反応はわずかと考えられた。

続いて、ヒト免疫マウスモデルを用いて、hiPS-CMシート移植後にin vivoでどのような免疫反応が誘導されるのかを解析した。生まれながらにリンパ球を持たない重度免疫不全マウス(NOG MHC double knockout マウス)に、hiPS-CMシートを移植したところ、移植片は長期間(>30日以上)生着した。続いて、健常人の血液からヒト末梢血単核球細胞を分離し、重度免疫不全マウスに静脈投与し、ヒト免疫が部分的に再現したヒト免疫マウスを構築した。このヒト免疫マウスにhiPS-CMシートを移植したところ、移植片は手術後10日ごろより著明に縮小し、17~24日で完全に消失した。

移植片のトロポニンT陽性細胞の周囲に多量のCD8陽性T細胞浸潤、Granzyme/IFN-γ発現

移植片を組織学的に解析したところ、心筋細胞のマーカーであるトロポニンT陽性細胞に周囲に多量のCD8陽性T細胞が浸潤しており、CD4陽性T細胞はわずかに認める程度と判明した。またこれらのCD8陽性T細胞は、GranzymeやIFN-γを発現していたことから、実際に免疫拒絶に関与していることが考えられた。CD8陽性T細胞のみを除去したヒト免疫マウスに、同様にhiPS-CMシートを移植したところ、30日間以上生着した。以上の結果から、hiPS-CMシート移植ではCD8陽性T細胞主体的に免疫拒絶が引き起こされることが明らかとなった。また、免疫抑制剤のkey drugであるタクロリムスを臨床濃度で投与したところ、これらの免疫反応が制御され、hiPS-CMシートは長期間(>30日以上)生着した。

hiPS-CMシート移植における免疫反応、心臓移植と比べ緩やかな可能性

研究グループはhiPS-CMシート移植における免疫反応メカニズムを初めて解明した。今回の結果から、hiPS-CMシート移植における免疫反応は、主にCD8陽性T細胞によることが明らかとなり、CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の双方が免疫反応を引き起こす心臓移植と比較し、免疫拒絶も緩やかな可能性が示唆された。研究グループは、「今回得られた知見をもとに、hiPS-CMシート移植に最適な免疫抑制戦略を検討していく予定。また今回開発したヒト免疫マウスモデルは、他のiPS細胞移植やがんに対する免疫反応の解析、さらに細胞治療の有効性を評価するなど、さまざまな免疫反応の解析に応用されることも期待される」と、述べている。

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