抗凝固薬開始の65歳以上心房細動患者、フレイルの経年的推移・臨床イベントを解析
慶應義塾大学は7月4日、静岡社会健康医学大学院大学との共同研究で行った、静岡県国民健康保険診療データベース(SKDB)を用いた大規模解析の結果を発表した。この研究は、同大内科学教室(循環器)の香坂俊准教授と東京大学医療品質評価学講座の中丸遼特任研究員ら、静岡社会健康医学大学院大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に掲載されている。
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高齢化社会に伴い、不整脈疾患、特に、心房細動は増加の一途を辿り、80歳以上では10人に一人が罹患することが報告されている。心房細動は、直接命に関わる病気ではないが、血液の流れが滞ることで血栓が出来やすくなり、脳梗塞など塞栓症のリスクとなり、そのため抗凝固薬を中心とした塞栓症予防を講じる必要がある。一方で、高齢者におけるフレイルも社会的な問題となっている。しかし、高齢心房細動患者におけるフレイルの進行や臨床予後の詳細に関して十分に明らかにされていなかった。
そこで、研究グループは、SKDBにおいて抗凝固薬が開始された65歳以上の高齢心房細動患者における、電子化フレイル・インデックス(electronic frailty index:eFI)を用いて定義されたフレイルの経年的推移、臨床イベント(死亡・塞栓症・大出血)に関して解析を行った。
患者6,247例のうちフレイル軽度30.1%、中等度35.4%、重度25.9%
心房細動患者で、塞栓症予防のために経口抗凝固薬が新規に開始された65歳以上の心房細動患者6,247例(平均年齢79歳)のうち、フレイルなし(eFI<0.12)が7.7%、軽度フレイル(eFI:0.12-0.24)が30.1%、中等度フレイル(eFI:0.24-0.46)が35.4%、重度フレイル(eFI>0.36)が25.9%に該当し、大半がフレイルを有していた。その後の経過を追跡すると、3年後も同一のフレイル重症度であった症例は全体の約30%であり、フレイルは動的に推移することがわかった。
抗凝固療法開始時フレイルなし症例の約半数が軽度以上に進行、重度症例から改善は約7%
抗凝固療法開始時にフレイルがなかった症例の約半数が軽度フレイル以上に進行し、逆に重度フレイルであった症例のうち、フレイルなしまたは軽度フレイルへ改善を示した割合は約7%に留まった。
ベースラインのフレイルが重症であるほど死亡例「増」
臨床的イベントの発生率は、死亡、入院を要する血栓塞栓症、大出血は3年間で、それぞれ23.4%、4.1%、2.2%で、ベースラインのフレイルが重症であるほど、死亡例が増加した。死亡例の約75%は、死亡の1年前に中等度または重度のフレイルを呈していた。その一方で、観察期間内に心原性脳塞栓症を含む塞栓症や大出血を経て死亡に至った症例は、全死亡の5.4%に留まった。
フレイル早期同定の重要性示す
今回の研究結果から、高齢心房細動患者の大半がフレイルを有し、その多くが経時的にフレイルが進行あるいは死亡を含む臨床イベントを発症することがわかった。一方で重度フレイル症例が回復軌道を示す割合は限定的であり、フレイルを早期に同定することの重要性が示された。さらに、抗凝固薬による塞栓症予防が確立した現代の診療環境において、死亡例の大半は、心房細動患者において重要視されている塞栓症や大出血を経験していなかった。したがって、フレイルを有する患者における臨床現場の意思決定においては心血管イベントのみならず広範なリスクを念頭におく必要があると考えられる。先進国を中心に高齢化が急速に進行する中、同研究結果を踏まえ高齢者医療の適正化に向けさらなる知見の集積が求められる、と研究グループは述べている。
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