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神経内分泌様がん、スプライシング異常是正する核酸医薬が抗腫瘍効果発揮-阪大

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2024年07月10日 AM09:10

腫瘍抑制因子REST、小細胞肺がん細胞内でスプライシング異常により発現低下

大阪大学は7月3日、難治性の神経内分泌がんに分類される小細胞肺がんおよび治療抵抗性前立腺がんを治療標的とする新規の核酸医薬、スプライシング制御アンチセンスオリゴヌクレオチド(_SSO)の研究成果を報告したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科生物有機化学分野の三島啓士朗大学院生(研究当時)、小比賀聡教授、下條正仁准教授(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy Nucleic Acids」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

死因の一位を占める肺がんの中でも、小細胞肺がんは進行が早い腫瘍である。最近、免疫チェックポイント阻害薬が承認されたが、30年以上にわたり小細胞肺がんの効果的な新規治療薬の進展がなかった。また、治療抵抗性の前立腺がんや一部の乳がんも類似の形質を呈し、既存の治療薬が奏功しないなど治療抵抗性の問題がある。これらの難治性神経内分泌様がんでは、細胞内で腫瘍抑制因子REST(RE1-silencing transcription factor、別名NRSF)の遺伝子が正常細胞とは異なるスプライシングとなっているため(sREST mRNA)、その結果、RESTの発現が低下している。

また、アンチセンス核酸医薬()などの核酸医薬は、低分子医薬や抗体医薬とは異なり、タンパク質の発現を遺伝子レベルで制御することから、次世代の分子標的医薬として注目されている。最近、スプライシング制御核酸医薬が医薬品として承認されているが、がん治療薬はまだ誕生していない。

RESTのスプライシング改善し発現を回復させる「REST_SSO研究」に着手

研究グループは、(SCLC)や神経内分泌前立腺がん(NEPCa)で異常発現するSRRM4を標的とした革新的な核酸医薬、ギャップマー型SRRM4_ASOの開発研究を進めている。SRRM4_ASOは、SRRM4 mRNAに特異的に結合し、細胞内のRNaseHによりSRRM4 mRNAを分解する。SRRM4_ASOがSRRM4の発現を抑制し、その結果RESTのスプライシング異常が改善されて、がん細胞の生存が抑制されたことによりSRRM4_ASOの抗腫瘍効果が示された。このことから神経内分泌様がんへ分化した細胞内においてRESTの発現を呼び起こすことが、がん細胞の生存を抑制することにつながる可能性に着目し、RESTのスプライシングを直接制御するREST_SSOの研究に着手した。

RESTは、すべての神経遺伝子発現を制御する転写因子であり、中枢神経細胞とその他の細胞で発現様式が異なる。脳の細胞ではREST発現は低下して神経遺伝子が発現しているが、加齢とともに生じるRESTの発現により神経遺伝子発現が抑制される可能性も考えられる。一方で、肺や前立腺などの正常細胞ではRESTが高発現しているが、SCLCやNEPCaではRESTの発現低下が生じ、神経内分泌様がんへの分化が認められる。神経内分泌様がん細胞にRESTを強制発現させると細胞生存率の低下が生じることから、SCLCやPCaにおいてRESTの発現低下を正常に戻すことで、がん細胞死を誘導することを発見した。

マイクロエキソン挿入阻害のREST_SSO取得、REST高発現・がん細胞抑制効果を確認

REST遺伝子上に存在するマイクロエキソン(エキソンN)がスプライシングの過程で挿入されることで、sRESTの発現が増加してRESTの発現が低下する。スプライシング調節因子を競合的に阻害することでエキソンNの挿入を阻害する可能性のあるオリゴヌクレオチドを複数合成し、エキソンNを人為的に取り除くスキッピングを指標にスクリーニングを行うことで、REST_SSO(AmNA[+23/+40]、AmNA[+27/+44])を取得した。オリゴヌクレオチドには、研究グループが創出した人工修飾核酸AmNAを採用しており、標的配列への高い相補性を確保した。このREST_SSOは、用量依存的にスプライシングを制御し、RESTの発現を高めた。

REST_SSOは、評価に用いたすべてのSCLCおよびPCa細胞内でRESTの発現を亢進した。また、このスプライシング制御により、先行研究のSRRM4_ASOに匹敵する程度で、がん細胞の生存率を抑制した。

REST_SSO、がん細胞移植マウスでも抗腫瘍効果発揮

がん細胞を移植したマウスにREST_SSOを投与したところ、コントロール群と比較して、腫瘍サイズが有意に縮小した。肝毒性の指標として血中AST/ALTおよび体重変化を評価したところ、大きな変化は認められなかったことから安全性は高いと考えられた。また、細胞内への取り込みを改善する目的で、cRGDをコンジュゲートしたREST_SSOをマウスに投与したところ、腫瘍内への移行と抗腫瘍効果に改善傾向が見られた。

がん細胞にREST_SSOを添加した後の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、大きく変動した遺伝子のほとんどがRESTで制御される遺伝子だった。これは、がん細胞内でRESTの発現が誘導されたことにより、RESTで制御される遺伝子発現が抑制されたためと考えられる。また、発現が亢進したmiRNAには、コンパニオン診断薬としての有効性を報告したmiR-4516が含まれており、個別化医療への治療薬開発に有効である可能性が高まった。

治療抵抗性の小細胞肺がんなど、新規治療薬開発につながると期待

治療抵抗性が問題となっている小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がんおよび乳がんの新規治療薬の開発に向け、今回の研究成果が大きく貢献することが期待される。研究グループは、核酸医薬をがん細胞内へ効率よく取り込ませる化合物L687を報告しており、両者の併用投与などの実用化に向けた検討をしている。「今後、さらなる評価および安全性を検証して、SRRM4_ASOおよびREST_SSOは、それぞれの特徴を生かして実用化へつながると期待している」と、研究グループは述べている。

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