高齢者が新規要介護認定される複数の疾患の組み合わせや予後は?
筑波大学は7月4日、新規要介護認定者の病気のパターンを分類し、その予後を解明したと発表した。この研究は、同大医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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世界的に高齢化が進み、日本でも要介護状態となる高齢者が増えている。このような人たちをサポートするために、日本では高齢者の尊厳を保持しつつ、自立した生活を送れるようになることを目的として2000年より介護保険制度が開始された。
介護保険制度を有効に活用し介護サービスが適切に提供されるようになるためには、まず新規に要介護認定された高齢者の特徴を理解することが必要となる。高齢者が新規要介護認定されることに影響する疾患については先行研究で明らかになっているが、複数の疾患の組み合わせについては検討されていなかった。また、複数の疾患の組み合わせと予後についての研究も、これまで存在しなかった。
そこで研究グループは今回、疾患の組み合わせに基づいて新規要介護認定された高齢者を分類し、その分類と死亡や介護度悪化といった予後の関連について比較した。
クラスター分析で6つの臨床サブタイプを同定
研究では、つくば市の介護認定調査票をもとに、2014年10月~2019年3月までに新規要介護認定された65歳以上の4,648人を同定した。また、医療保険レセプトのデータとも突合し、先行研究で明らかになった新規要介護認定されることに影響する22疾患の有無について抽出した。同定した新規要介護認定者の年齢の中央値は83歳(四分位範囲73-88)で、女性が60.4%を占めた。併存疾患数の中央値は4(四分位範囲3-6)で、2つ以上の併存疾患を持っていた参加者は88.6%だった。併存疾患で最も多かったのは腰部痛(59.8%)で、次いでその他の関節疾患(39.6%)だった。
同解析では、同定した新規要介護認定者について、抽出した22疾患の有無をもとに教師なし機械学習の一つであるクラスター分析を実施した。その結果、(1)筋骨格系疾患・感覚機能異常タイプ(1,025人)、(2)心疾患タイプ(729人)、(3)神経疾患タイプ(765人)、(4)呼吸器疾患・悪性腫瘍タイプ(421人)、(5)インスリン依存性糖尿病タイプ(371人)、(6)その他タイプ(1,337人)の6つの分類(臨床サブタイプ)を同定した。山武市のデータ(2013年3月~2016年10月まで)を用いた同様の解析でも同じ分類が再現された。
死亡や介護度悪化との関連性など、各臨床サブタイプの特徴も判明
さらに、これらの臨床サブタイプと予後の関係について評価を行った。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて臨床サブタイプと死亡との関連について解析したところ、筋骨格系疾患・感覚機能異常タイプを基準として、心疾患タイプは調整ハザード比が1.22(95%信頼区間1.05-1.42)、呼吸器疾患・悪性腫瘍タイプは同1.81(1.54-2.13)、インスリン依存性糖尿病タイプは同1.21(1.00-1.46)となり、有意に死亡と関連していたことがわかった。
また、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて臨床サブタイプと死亡を含めた介護度悪化との関連について解析したところ、筋骨格系疾患・感覚機能異常タイプを基準として、心疾患タイプの調整オッズ比は1.39(95%信頼区間1.08-1.80)、呼吸器疾患・悪性腫瘍タイプは同2.29(1.67-3.15)、その他タイプは同1.47(1.18-1.83)となり、有意に介護度悪化と関連していたことが明らかとなった。
日本で普遍的な結果なのかを判断するために、他の地域での解析も必要
今回の研究で明らかになった疾患の組み合わせによる臨床サブタイプを介護ケア現場で活用することにより、対象者のより正確な予後(死亡や介護度悪化)が予測できると思われる。これにより、利用する介護サービスの選択や将来に対するさまざまな準備について関係者が意見を一致させやすくなることが期待される。また、これらの臨床サブタイプごとに、どのようなケアや医療が有効なのかを調べる研究が望まれる。
「今回の解析はつくば市と山武市のデータを用いて実施されており、日本全国どこでも同じ結果になるかの保証はない。本結果が日本において普遍的なものなのかを判断するためにも、日本の他の地域でも同様の解析が実施されることが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL