照射位置のリアルタイム確認、既存手法に課題
早稲田大学は7月3日、一般に市販されているポリエステル製の生地や衣類が放射線照射で発光することを発見し、またポリエステル製の衣服が放射線治療に使われる陽子線ビーム照射で発光している様子を短時間間隔の連続画像(リアルタイム画像)として可視化することにも成功したと発表した。この研究は、同大理工学術院の山本誠一上級研究員(研究院教授)、片岡淳教授らのERATOプロジェクト研究チーム、神戸陽子線センターの山下智弘博士、東北大学未来科学技術共同研究センターの吉野将生准教授、鎌田圭准教授、東北大学金属材料研究所の吉川彰教授、大阪大学大学院医学系研究科の西尾禎治教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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放射線治療では正確な放射線照射が求められる。しかし、種々の要因により、正確な位置に放射線が照射されない可能性もある。精度の高い治療を提供可能にするため、治療中に患者の位置と体表面における放射線ビーム位置を短時間間隔の連続画像(リアルタイム画像)として計測する方法が研究されている。
これまで、患者の表面に照射された放射線領域のリアルタイム画像確認において、放射線治療用高エネルギーX線照射で発生するチェレンコフ光を画像化する方法が試みられてきた。しかし、陽子線治療ビームではチェレンコフ光がほとんど生成せず、リアルタイム画像化が困難だった。水や生体組織は、放射線に対して光を放出することが報告されているが、放出される光はごくわずかであり、観察には暗箱と超高感度カメラが必要で、観察に長い時間を要していた。放射線で良く光るシンチレータを用いる方法も試みられているが、一般にシンチレータは固いため、平らな部分に配置する必要があった。
ポリエステル製の衣類を用いて、陽子ビームを0.1秒間隔のリアルタイム画像で取得成功
今回研究グループは、生地や衣類の放射線による発光を探索するため、放射線の一種であるアルファ線を種々の生地切片に照射することで、基礎的な性能を評価した。この探索により、ポリエステル製の衣類は、他の衣類、例えば綿などとは異なり、アルファ線照射により、プラスチックシンチレータ(代表的なシンチレータの一つ)の10%から20%もの強度で発光することが明らかになった。
これらの結果をもとに、ポリエステル製のシャツなどをリアルタイム画像化実験の材料として選択し、陽子線照射中の発光画像を高速高感度カメラで計測した。その結果、部屋の電気を消した環境において、陽子線照射で発生する発光を、0.1秒間隔のリアルタイム画像として得ることに成功した。また得られた発光画像から、陽子線ビーム照射発光の積算画像も得られた。
CT検査時等の放射線照射位置リアルタイム計測に応用できる可能性
今回の研究により、陽子線ビーム照射中に衣服表面のリアルタイム発光画像を得ることが可能になった。ポリエステル生地や衣類は柔らかく自在に曲がり、また縫い合わせることで任意の形状にすることが可能だ。放射線治療を受ける患者にフィットするポリエステル製のシャツを着てもらうことで放射線照射による患者表面の発光を画像化できる可能性がある。またポリエステル生地や衣類は、衣料用に大量生産されているので低コストだ。
また、これまでシンチレータというと、固く曲がらないものがほとんどだった。ポリエステル製の生地や衣類は自在に変形することから、今回発見した放射線照射発光現象は、これまでと異なる用途の広がりが期待される。
「ポリエステル製の衣類を用いて、陽子ビームを0.1秒間隔でリアルタイム画像として観察できるようになった。明るい環境で、より短い時間で陽子ビームを画像化するには、放射線照射発光の多い材料開発が必要だ。陽子線以外にも、治療用X線や電子線、さらには診断用X線装置やCT装置の放射線照射位置リアルタイム計測にも応用できる可能性があるので、今後、画像化実験を進めたい」と、研究グループは述べている。
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