生後1か月児における栄養方法の違いがPAの吸収に及ぼす影響は?
順天堂大学は6月28日、乳児用ミルクの主な脂質であるトリグリセリド(triglyceride:TG)の構造を母乳に近づけることで、脂肪酸の一種であるパルミチン酸(palmitic acid:PA)の便中排泄が母乳栄養児と同様に抑えられることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科小児思春期発達・病態学の清水俊明特任教授、同大医学部小児科学講座の東海林宏道先任准教授と、東京大学医学部小児科、東邦大学医学部新生児学教室、明治ホールディングス株式会社、株式会社明治との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」オンライン版に掲載されている。
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脂質は乳児の摂取エネルギーの半分を占める栄養素であり、PAはその5分の1を占める。脂肪酸の吸収はTGの結合部位(sn-1、sn-2、sn-3)によって異なる。sn-2位に結合している脂肪酸はリパーゼによる消化を受けずに効率よく吸収される。一方、sn-1位、sn-3位の脂肪酸はリパーゼにより遊離脂肪酸となり、PAは腸管内でけん化し、不溶性の脂肪酸カルシウムを形成するため、吸収効率が低下する。
母乳中PAの70~80%程度はsn-2位に結合しており、過去には乳児用ミルク中のPAのsn-2位結合比を40~50%に高めると、脂質やカルシウムの排泄が減る、骨塩量やビフィズス菌数が増加するとの報告がある。しかし、これまで国内で乳児用ミルクのPA sn-2位結合比率に着目した臨床研究は行われていなかった。そこで研究グループは今回、生後1か月児における栄養方法の違いがPAの吸収に及ぼす影響について検討した。
低sn-2ミルクの授乳が増えると、便中総PA/けん化PAレベルが増加
研究では、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京大学医学部附属病院、東邦大学医療センター大森病院で出生した健康な乳児149例を解析対象とした。1か月健診で便を入手し、健診前の1週間について乳児の母乳摂取状況、乳児用ミルクの銘柄と授乳量を調査した。便中のPA量は、エーテル抽出により便中脂質を抽出した後にガスクロマトグラフィーにより測定した。脂質を抽出する際に塩酸を加えて測定した結果を「便中総PA濃度」、塩酸を加えずに測定した結果を「非けん化PA濃度」とし、「便中けん化PA濃度」はその差し引きにより算出した。
その結果、1か月健診時における便中総PA濃度の中央値は低sn-2ミルクを哺乳した児で最も高く、母乳栄養児および高sn-2ミルクを哺乳した児と比べてそれぞれ有意に高値だった。
高sn-2ミルクの授乳量が増えても、便中総PA/けん化PAレベルは増加せず
便中けん化PA濃度の中央値に関しては、低n-2ミルクを哺乳した児で最も高く、高sn-2ミルクを哺乳した児と比べて有意に高値だった。高sn-2ミルクの哺乳量および低sn-2ミルクの哺乳量と便中総PAおよびけん化PAとの関連性を重回帰分析モデルにより評価したところ、便中総PA濃度および便中けん化PA濃度は低sn-2ミルクの哺乳量と正の相関が認められた一方で、高sn-2ミルクの哺乳量との関連は認められなかった。
乳児用ミルク改良や、より良い成長・発達につながる可能性
今回の検討結果で、生後1か月の評価では低sn-2ミルクの哺乳量と便中総PA濃度および便中けん化PA濃度の間に関連が認められた一方で、高sn-2ミルクの哺乳量と便中総PA濃度および便中けん化PA濃度との間には関連が認められなかったことから、乳児用ミルク中のPA sn-2結合比を50%以上とすることで、乳児の便中PA排泄増加が解消されることが判明した。これは母乳栄養児と同等とするために必要な条件の一つと考えられる。
「同結果は、国内の乳児用ミルク改良や、乳児のより良い成長・発達に役立つ知見となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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