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セフトリアキソン+ランソプラゾール、心室性不整脈・心停止リスク増の可能性-慶大

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2024年07月08日 AM09:00

意図せず併用される場合がある2剤、一定以上になるとhERGチャネル阻害の可能性

慶應義塾大学は7月1日、約10万人の使用例を調査し、注射用抗菌薬のセフトリアキソンと、胃酸分泌抑制薬のランソプラゾールの併用により、両薬剤の併用期間中における心室性不整脈および心停止リスクが上昇する可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部の三星知共同研究員、今井俊吾専任講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Infection」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

セフトリアキソンは広域抗菌薬の1つであり、成人や小児におけるさまざまな感染症の第一選択薬として使用される。この抗菌薬は1980年代より日本で使用されているが、有効性や安全性が高く、かつ1日1回投与も可能という利便性から、現在も臨床現場で汎用されている。一方、ランソプラゾールはプロトンポンプ阻害薬という種類の胃酸分泌抑制薬であり、消化性潰瘍の治療や鎮痛薬などによる消化器系の副作用予防に使用され、その有効性や安全性の高さから日本を含めて世界中で幅広く使用されている。

この両薬剤は使用頻度が非常に高いため、臨床現場では意図せずに併用されるケースが多くある。しかし、セフトリアキソンとランソプラゾールの併用により、両薬剤の血清中濃度が治療域内の一定以上に達した場合に、ヒトの心筋に発現しているhuman Ether-a-go-go Related Gene(hERG)チャネルが阻害され、心室組織の心筋細胞活動電位幅が延長することで、心電図上でQT間隔が延長する可能性が報告されている。これらの作用は臨床的には心室性不整脈や心停止などを起こすため、非常に重篤となる可能性がある。これまで最も大規模な研究は2023年にJAMA Network Openに掲載されたBaiらによるもので、カナダにおける3万1,152人のセフトリアキソン使用患者を解析したものだった。ただし、この研究では、セフトリアキソン以外の抗菌薬の影響について検討されていない、プロトンポンプ阻害薬には内服薬と注射薬があるが、これらを区別した検討がされていない、心室性不整脈および心停止の発生頻度が実臨床と比較して高いことから、なんらかの交絡因子の影響を受けている可能性などが懸念されていた。

セフトリアキソンならびにスルバクタム/アンピシリンを使用した約10万人を調査

そこで研究グループは、先行研究における懸念事項を考慮しても、両薬剤の併用が心室性不整脈および心停止のリスクを増加させるのかを明らかにするため、株式会社JMDCが構築した日本の医療機関データベースを用いて研究を実施した。まず、2つの比較対照を定義した。1つはセフトリアキソンの対照として、スルバクタム/アンピシリンを選択した。スルバクタム/アンピシリンはセフトリアキソンと同様の広域抗菌薬の1つで、日本ではセフトリアキソンとともに肺炎や尿路感染症の第一選択薬として汎用されている。もう1つはランソプラゾールの対照として、他のプロトンポンプ阻害薬(ラベプラゾール、エソメプラゾール、)を選択した。日本ではこの4種類のプロトンポンプ阻害薬はランソプラゾールとほぼ同様の適応症に使用される。つまり、セフトリアキソンとランソプラゾールの併用における「心室性不整脈および心停止リスクの増加」を検討するにあたり、セフトリアキソン以外の抗菌薬を使用した場合、ならびにランソプラゾール以外のプロトンポンプ阻害薬を使用した場合の、それぞれの薬剤を比較対照として設定することで、より厳密に心室性不整脈および心停止リスクを検討できるようデザインした。セフトリアキソン使用患者は5万5,437人、スルバクタム/アンピシリン使用患者は4万9,864人だった。

、ランソプラゾール内服・注射どちらと併用しても心室性不整脈・心停止リスク増

内服のプロトンポンプ阻害薬を検討した結果では、セフトリアキソンとランソプラゾールの併用のみで、心室性不整脈および心停止リスクが増加するという結果が得られた。また、注射のプロトンポンプ阻害薬を検討した結果では、内服のプロトンポンプ阻害薬での検討と同様にセフトリアキソンとランソプラゾールの併用により心室性不整脈および心停止リスクが増加し、内服および注射で一貫した結果が得られた。

セフトリアキソンと注射のオメプラゾール併用でもリスク増と判明

さらに、セフトリアキソンと注射のオメプラゾールの併用で、心室性不整脈および心停止リスクが増加する結果が得られた。この理由としては、オメプラゾールにもランソプラゾールと比較して弱いながらもhERGチャネル阻害作用があり、かつ日本では注射用のプロトンポンプ阻害薬の投与量が国外と比較して多いため、体内での血清中濃度が内服薬よりも高濃度になることが影響した可能性が考えられた。

臨床導入に向け、前向き研究の実施が必要

研究結果は観察研究から得られた知見であり、この結果をすぐに臨床に導入することはできず、前向き研究などの詳細な研究が必要となる。一方で、セフトリアキソンおよびランソプラゾールはそれぞれで同系統の代替薬が存在するため、臨床現場での薬剤変更は比較的容易である。「基礎疾患に心疾患がある患者などではこれらの薬剤の併用を回避することで、薬物治療に起因する予期しない有害事象を回避できる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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