心電図異常とCVD発症の関連、一般集団における包括的な評価は不足していた
京都大学は7月2日、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約300万人)を用いて、健康診断において心電図異常が指摘されると、将来の心血管疾患(CVD)の発症リスクが上昇することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の井上浩輔准教授(白眉センター・社会疫学)、石見拓教授(予防医療学)、森雄一郎博士課程学生、ハーバード大学医学部の八木隆一郎リサーチフェロー、後藤信一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Internal Medicine」に掲載されている。
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CVDは世界的にみても死因の上位を占め、30歳から70歳の就業人口でも年間600万人が死亡している。一方、薬物治療の進歩などで重症化予防が可能となり、効果的な早期発見・スクリーニング方法を確立することは喫緊の課題である。過去の研究では、心電図所見と心不全・脳梗塞などのCVDとの関連は指摘されていた一方で、一般集団(症状のない健康な人がほとんどの集団)におけるエビデンスが不足していた。そのため今回の研究では、健診受診者における心電図所見と将来のCVD発症の関連性を明らかにすることを目的とした。
369万人の協会けんぽデータ解析、心電図異常とCVD発症リスクは関連と判明
日本における最大の保険者である協会けんぽのデータを用いて、2016年に心電図検査を受検した35歳以上65歳以下のCVDの既往のない加入者(被保険者)369万8,429人を解析した。2016年から2021年における最大5年間の追跡の結果、心房期外収縮などの軽度異常や心房細動などの重度異常が見られた加入者は、正常心電図であった加入者と比較して、CVDが発症するリスクが高いことが明らかになった。さらに、軽度心電図異常の種類だけではなく数が多い場合、CVD発症リスクや重度心電図異常発症リスクがより高くなることが示された。これらの関連は性別や年齢、生活習慣病などの属性による違いは認められなかった。
より詳細な研究や精度向上のため、人工知能の活用にも期待
現在日本で全国的に行われている心電図を用いた包括的なスクリーニングアプローチはCVDリスク評価につながる可能性が示唆された。CVDの効果的なスクリーニングは早期治療開始につながり、将来の重症化予防、ひいては健康寿命の延伸・医療費につながるため、非常に重要な視点である。このような一般集団におけるスクリーニングの効果を検証した研究は限られており、より詳細な研究や、さらなる精度向上のための人工知能の活用が求められる。
「近年、人工知能が臨床データ解析に非常に高いポテンシャルを持っていることがわかってきており、本研究結果が今後心電図解析分野における人工知能の実装に向けた基礎になると考えている」と、研究グループは述べている。
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