自立歩行獲得遅延ハイリスク高齢患者、心大血管手術前抽出は困難だった
兵庫医科大学は7月2日、心大血管手術前のルーチン検査Computed Tomography(CT)検査により評価した筋質が、術後の自立歩行獲得の遅延を予測するのに有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院リハビリテーション科学研究科病態運動学分野の清水和也大学院生、松沢良太講師、玉木彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に掲載されている。
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日本では、年間約7万人以上の患者が心大血管手術を受けており、高齢化の影響で、高齢の患者数も増加している。心大血管手術を受ける高齢患者では、フレイルの有病率が25~50%、サルコペニアの有病率が19~27%と報告されている。このような高齢の患者において術後の機能回復が最も重要な課題だ。術後の自立歩行獲得の遅延は、入院期間の長期化や、死亡率および再入院のリスクの上昇につながることが報告されている。このような事態を未然に防ぐためには、ハイリスク患者を早期に抽出し、是正することが重要だ。しかし術前にハイリスク患者を抽出することは、さまざまな制約により実務的に困難であり、また、手術直前に抽出しても是正の機会を得ることはできない。
術前ルーチン検査の「CT検査」で骨格筋評価、立歩行獲得遅延への予測能を評価
そこで、今回研究グループは既存のCT画像を用いた骨格筋評価に着目。心大血管手術後の自立歩行獲得の遅延に対する予測能を評価することにした。CT検査は病態把握および手術計画のために心大血管手術前のルーチン検査として実施されており、近年では骨格筋の量や質を評価するゴールドスタンダードにも位置づけられている。
単一施設で待機的心大血管手術を受けた139人を対象として、術前CT画像から、筋肉量の指標である大腰筋体積と、筋質の指標であるCT値を算出。術後の自立歩行の獲得遅延の定義は、日本循環器医学会のガイドラインを参考に、術後4日以内に100m歩行が達成できない場合とし、本研究対象者の47.5%がこれに該当した。CT値および大腰筋体積と術後の自立歩行獲得遅延との関連について評価するために、受信者動作特性(ROC)分析およびロジスティック回帰分析を行った。
術後の自立歩行獲得遅延リスク患者を抽出、術前治療介入の適応判定にも有用な可能性
ROC分析によって算出したCT値、大腰筋体積の曲線下面積はそれぞれ0.78、0.69でありCT値は中等度の判別能を有することが確認された。また、ロジスティック回帰分析の結果、CT値の低下は年齢、手術の種類、腎機能等の患者背景と独立して、術後の自立歩行獲得遅延と関連することが明らかになった。同研究では、術前1~2か月のCT画像を採用しており、術前までの治療介入に必要な期間が確保されている。したがって、CT検査は、術後の自立歩行獲得が遅れる可能性のある患者を抽出し、術前の治療介入の適応判定にも有用である可能性が示された。
今後は対象者を増やし、病態・術後管理の異なる対象者別に分析を行う必要
今回の研究は単施設での観察研究であり、今後は症例数を増やした検討が必要だ。また、症例数が少なく、手術の種類別あるいは疾患別にデータを分析することができなかった。今後は、対象者を増やし、病態や術後管理の異なる対象者別に分析を行う必要がある、と研究グループは述べている。
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