脳循環代謝の簡便な検査なし、血液検査のみで測定可バイオマーカーが求められる
国立循環器病研究センターは6月27日、頸動脈狭窄/閉塞症において、血中mid-regional pro-adrenomedullin(MR-proADM)が、脳の血流や代謝の状態を示す血液バイオマーカーであることを発見したと発表した。この研究は、同大国立循環器病研究センターの服部頼都認知症先制医療部特任部長・脳神経内科医長、猪原匡史脳神経内科部長、フィンランド トゥルク大学トゥルクPETセンターの飯田秀博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」オンライン版に掲載されている。
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頸動脈狭窄/閉塞症では、脳循環代謝が低下した状態が長く続くことで、脳梗塞、認知症を発症しやすくなる。このため、脳梗塞・認知症予防のために脳循環代謝がどの程度低下しているかを定期的に確認していく必要がある。しかし、動脈穿刺を行う脳血管撮影、SPECT、PET検査が必要となり、簡便に脳循環代謝を測定する検査は存在しない。そのため、血液検査のみで測定できるバイオマーカーの発見が待望されてきた。
MR-proADMが頸動脈狭窄症/閉塞症における脳循環代謝低下と関連するか検討
そこで、今回研究グループは、低酸素に反応して生体内で産生されるホルモンadrenomedullinに着目。その産生の指標MR-proADMが頸動脈狭窄/閉塞症による脳循環代謝低下と関連するかどうかを検討した。同研究では、2017年~2021年に国立循環器病研究センターを受診した無症候性中等度以上頸動脈狭窄症または閉塞症患者を対象として、血漿MR-proADM濃度が15OガスPETで測定された脳血流量と酸素摂取率と関連しているかを検討。加えて、血漿MR-proADM濃度とAlzheimer’s Disease Assessment Scale–Cognitive Subscale 13(ADAS-Cog)で測定された認知機能との関連についても解析を行った。
脳血流低下「高」の酸素摂取率上昇群で血漿MR-proADM濃度が有意に上昇
161人の15OガスPET検査患者の中で、脳血流量低下群(138人)と正常群では血漿MR-proADM濃度の差を認めなかったが、酸素摂取率正常群と比較して、特に、脳血流低下の程度が高いと考えられる酸素摂取率上昇群(19人)で血漿MR-proADM濃度は有意に上昇していた。この結果は、年齢や既往症などの患者背景で調整後も、血漿MR-proADM濃度は、酸素摂取率上昇と有意に関連した(オッズ比1.13倍、p=0.026)。血漿MR-proADM濃度のカットオフを0.682nMとすると感度74%、特異度68%で酸素摂取率上昇を判別可能だった。
認知症患者で血漿MR-proADM濃度が有意に上昇
116人のADAS-Cog検査患者において、認知症患者(4人)で血漿MR-proADM濃度は有意に上昇していた。この結果は、年齢、狭窄/閉塞病変側、教育歴、既往症などの患者背景で調整後も、血漿MR-proADM濃度は、認知症と有意に関連した(認知症患者と認知機能正常患者との間のADAS-Cog合計点の平均差1.06、p=0.009)。血漿MR-proADM濃度のカットオフを0.751nMとすると感度100%、特異度82%で認知症を判別可能だった。
マーカーとして確立されれば血液検査で簡易チェック可、外科治療に向けた早期精査に期待
今回の研究では、MR-proADMが脳血流低下の程度が高い患者群で上昇を示したことから、頸動脈狭窄/閉塞症の脳循環代謝低下を反映する血中バイオマーカーである可能性が高いことが明らかになった。MR-proADMを脳循環代謝低下バイオマーカーとして確立できた場合には、血液検査を行うことで頸動脈狭窄/閉塞症が重症化しているかどうかを簡易にチェックすることが可能となり、外科的治療のために早めの精査を行うことが可能となることが期待される。同研究結果は、頸動脈狭窄/閉塞症の診療および予後を変化させうる重要な知見と考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース