医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 切除可能な進行食道がん、術前DCF療法により生存期間が有意に延長-国がんほか

切除可能な進行食道がん、術前DCF療法により生存期間が有意に延長-国がんほか

読了時間:約 5分5秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年07月05日 AM09:30

術前の標準治療CF療法、DCF療法とCF+RT療法と比較

国立がん研究センターは6月27日、切除可能な進行食道がん(扁平上皮がん)の術前化学療法について、日本の標準治療である2剤併用化学療法(CF療法)と、より強力な抗がん剤をCF療法に加えた3剤併用化学療法(DCF療法)、CF療法に放射線治療を加えた欧米の標準治療である化学放射線療法(CF+RT療法)の3つの治療の生存期間を第3相臨床試験で比較し、DCF療法がCF療法に対して生存期間を有意に延長することが示され、DCF療法が日本における切除可能な食道がんの術前化学療法の標準治療であると結論付けたことを発表した。この研究は、同センター中央病院を中心とした日本臨床腫瘍研究グループ(:Japan Clinical Oncology Group)によるもの。研究成果は、「The Lancet」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

食道がんは、食道の粘膜にある細胞ががん化することで発症する。日本における食道がんの組織型としては、食道の粘膜の最も内側に発生する扁平上皮がんが90%弱を占めており、逆流性食道炎によって発生し欧米に多いとされる腺がんは7%程度とされている。日本では、JCOG9907試験の結果から術前CF療法による化学療法が標準治療とされてきたが、食道がんは依然予後の悪いがんであり、より強力な術前治療の開発が必要とされていた。一方、欧米においては、外科的治療を避け、より局所的な治療を好む傾向から、化学療法に放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が標準治療となっていた。しかし、食道はその構造的な理由から放射線治療を行うと、その周辺臓器である肺や心臓への後発的な副作用が認められることが知られている。そこで研究グループは、切除可能な進行食道がんに対して、標準治療である術前CF療法と、より強力な細胞傷害性抗がん剤であるドセタキセルをCF療法に加えた術前DCF療法の比較と、日本と欧米の標準治療の比較を目的として計画した。

JCOG1109試験、約600人の切除可能な進行食道がん患者が参加

切除可能な進行食道がん患者を対象に、標準治療である術前シスプラチン+(CF療法)に対する、3剤併用術前化学療法(+5-FU、DCF療法)と、術前化学放射線療法(+5-FU+放射線療法41.4Gy、CF+RT療法)の優越性をランダム化P3試験(JCOG1109)で検討した。3つの治療をより正確に評価するために、患者を3群にランダムに割り付けた。最終的にCF療法群199人、DCF療法群202人、CF+RT療法群200人の患者の治療結果を比較した。患者の年齢の中央値は64~65歳で3群ともほぼ同等で、病期に関しても明らかな差はみられず、患者の背景に大きな違いは認めなかった。

3年後の生存割合、CF療法62.6%、DCF療法72.1%、CF+RT療法68.3%

主要な評価項目である生存期間の中央値は、CF療法群が5.6年、DCF療法群は未達、CF+RT療法群が7.0年と、統計学的にDCF療法群がCF療法群に対し生存期間が上回った[ハザード比(HR)=0.68(95%信頼区間:0.50-0.92)、p=0.006]。一方、CF+RT療法群は、CF療法群を上回らなかった[HR=0.84(95%信頼区間:0.63-1.12、p=0.12)]。また3年後に生存している患者の割合は、CF療法群が62.6%、DCF療法群が72.1%、CF+RT療法群が68.3%だった。

観察期間5年終了時でも、DCF療法群は引き続き有意に生存期間が良好

死亡した患者の中で、死因をそれぞれの群別にみると、食道がんの再発に伴う死亡がCF療法群は75.5%、DCF療法群は79.7%に対し、CF+RT療法群では64.0%だった。肺炎や、心臓疾患などがん以外の他の病気で死亡(他病死)と判断される患者の割合はCF療法群で13.3%、DCF療法群で9.5%、CF+RT療法群では25.8%だった。

また、観察期間5年終了時の最終解析の結果、CF療法群に対し、DCF療法群は引き続き有意に生存期間が良好だった(HR=0.68(95%信頼区間:0.51-0.91、p=0.004)(5年生存割合51.9% vs. 65.1%)。CF+RT療法群は、引き続き、CF療法群に対する有意差を示すことができなかった(HR=0.86(95%信頼区間:0.66-1.14、p=0.15)(5年生存割合51.9% vs. 60.2%)。

副作用、発熱性好中球減少症が他の治療に比べやや多い

術前治療に関連した副作用は、重篤な好中球減少がCF療法群で23.4%、DCF療法群で85.2%、CF+RT療法群で44.5%だった。発熱性好中球減少症は、CF療法群で1.0%、DCF療法群で16.3%、CF+RT療法群で4.7%と、以前の報告と同様だった。術後の合併症に関しては、肺炎がCF療法群で10.3%、DCF療法群で9.8%、CF+RT療法群で12.9%、吻合部漏出がCF療法群で10.3%、DCF療法群で8.7%、CF+RT療法群で2.4%、反回神経麻痺がCF療法群で15.1%、DCF療法群で10.4%、CF+RT療法群で9.6%だった。治療関連死はCF療法群で2%、DCF療法群で2%、CF+RT療法群で1%と、いずれも大きな違いは見られず3群とも安全性は許容範囲と考えられた。ただし、術前DCF療法に関しては、重大な副作用である発熱性好中球減少症が他の治療に比べやや多く、特に高齢患者や臓器機能に問題がある患者に強く副作用が出ることがわかっており、患者と相談しながら注意して治療を行う必要がある。

これらの結果より、切除可能な進行食道がん(扁平上皮がん、類基底細胞がん、腺扁平上皮がん)患者での術前化学療法は、術前DCF療法が最も生存期間延長効果を期待できる治療で、従来の術前CF療法に替わり標準治療になると結論づけた。ただし、食道がんの治療では、食事への影響、抗がん剤や手術に伴う副作用、再発の可能性などさまざまな考慮すべきことがあり、治療法の利点と欠点について、個々の患者がよく説明を受けた上で決めることも重要だ。

食道がんの術前標準治療、世界で大きな転換期

今回の試験では、欧米の標準治療である術前CF+RT療法が、術前CF療法と比べて生存期間を延長できなかったこと、またさらに術前CF+RT療法での心臓病や肺炎など他病死の誘発は、欧米の標準治療に一石を投じる結果となった。直接の比較ではないが、化学療法2剤に対して、局所治療である放射線を併用するよりも、全身治療である抗がん剤を併用した方が、より生存期間を延長することが示唆され、それまで欧米と同じく、術前化学放射線療法が標準治療だった中国でも、食道がん術前治療の標準治療のひとつに術前化学療法が追加された。

欧米での検証も進められ、今回の試験結果を追随する結果が出始めている。例えば、食道腺がんに対する術前化学放射線療法と、術前術後に3剤併用化学療法(FLOT療法)を行う治療の比較試験(ESOPEC試験)が行われ、3剤併用化学療法が有意に生存期間を延長(HR=0.70, 95%信頼区間0.53-0.92、p=0.012)することが、2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)で報告された。世界的な食道がんの治療法が大きな転換期を迎えている。

術前DCF療法またはCF療法+ニボルマブを検討する医師主導治験も実施中

さらに、JCOG食道がんグループでは、現在、術前DCF療法や術前CF療法に、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブを加えることで、より治療効果を高めることができるかどうかを評価する医師主導治験JCOG1804E「臨床病期T1N1-3M0、T2-3N0-3M0の胸部食道がんに対するCF療法またはDCF療法にニボルマブを併用する術前薬物療法の安全性試験」を行っており、手術の安全性と短期的な治療効果の改善が示されている。また、術前DCF療法後に手術を行い、術後にさらに治療を加えることで予後の改善が可能かを検討するために、JCOG2206「術前化学療法後に根治手術が行われ病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮がんにおける術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法のランダム化比較第III相試験」(SUNRISE試験)を開始している。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 切除可能な進行食道がん、術前DCF療法により生存期間が有意に延長-国がんほか
  • 統合失調症の「認知機能障害」を回復する皮下投与薬候補を開発-北陸先端大ほか
  • 免疫疾患のシングルセル解析研究、臨床応用視点からの総説発表-阪大
  • 頸動脈狭窄/閉塞症、脳循環代謝低下バイオマーカー候補を同定-国循ほか
  • 母親の両親の離婚が、子どものメンタルに影響を与える可能性-成育医療センターほか