造血システムを支える遺伝子の多くが血液がん発症と関連
大阪大学は6月25日、独自に作製したマウスの変異胚性幹細胞(ES細胞)を用いて造血に関わる遺伝子を探索したところ、これまで機能未知だった新規遺伝子を発見することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学の中井りつこ招へい教員(研究当時:特任助教・常勤、現在:大阪国際がんセンター血液内科特別研究員、堺市立総合医療センター血液内科副医長)、大阪国際がんセンター血液内科の横田貴史主任部長(研究当時:大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学招へい教授)、大阪大学微生物病研究所糖鎖免疫学グループの竹田潤二招へい教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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哺乳類の骨髄に存在する造血幹細胞は、自己複製によって生涯に渡り自分自身を枯渇することなく維持する一方で、毎日膨大な数の血液細胞を作り、必要に応じて、それらを全身にバランスよく送り出している。多彩な遺伝子がまるでオーケストラのように時相空間的に協調しながら精緻に制御されることによって、この複雑な造血システムを支えている。昨今、造血に関わる多くの遺伝子が血液がんの発症と関連があることもわかってきたことから、いまだ役割が明らかにされていない遺伝子を一つひとつ明らかにすることは、基礎科学のみならず、血液がんの原因を究明し新たな治療戦略を構築する上で、極めて重要な課題である。
マウスホモ変異ES細胞株ライブラリ作製、造血に関わる「Ahed遺伝子」を発見
哺乳動物の細胞の遺伝子は2本ずつ存在(二倍体)しており、片方の遺伝子に変化が起こっても、もう片方の遺伝子によってその変化が打ち消されるため、これまで潜性遺伝子のスクリーニングは困難だった。研究グループはこの問題を克服するため、相同染色体組換えを抑制し、DNA修復に関わるBloom遺伝子をうまく扱うことによって、多数の遺伝子を効率良く欠損(ノックアウト)する方法を開発し、1個の遺伝子が2本とも同時にノックアウトされたマウスホモ変異ES細胞株200種類からなる独自のライブラリを作製した。ここから造血に関わる未知の分子を探索するため、この変異ES細胞株と間葉系細胞(OP9)を共培養し血液細胞に分化誘導させることによって、血球分化・成熟に関わる重要な遺伝子をスクリーニングしたところ、ある遺伝子変異株において、血液細胞の産生が著しく障害されていることを見出し、この遺伝子をその特徴からAttenuated haematopoietic development(Ahed)と命名し、今回世界で初めて報告した。
核内局在のAhedタンパク質、RNAスプライシング調節を介して造血に関与する可能性
研究グループは、Ahed遺伝子が血液細胞、特に造血幹細胞に高発現していることを明らかにした。Ahed遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)を作製し解析を進めたところ、造血幹細胞からこのAhed遺伝子がなくなると、胎児・成体いずれにおいても血液細胞が作られなくなることを見出し、Ahed遺伝子が生涯にわたって造血に不可欠な遺伝子であることを証明した。Ahed遺伝子は核内に局在する機能未知のタンパク質(Ahedタンパク質)を合成していたことから、研究グループはAhed遺伝子が核内の重要なイベントに寄与している可能性が高いと予想し、RNAシーケンスのデータを駆使して解析を進めた結果、Ahedタンパク質が遺伝子転写産物のRNAスプライシングの調節機構を介して造血に重要な役割を果たしている可能性を示した。
Ahed遺伝子変異、急性白血病で多く見られることも判明
さらに、公開されているデータベースを用いて検索した結果、Ahed遺伝子の変異が血液がん(特に急性白血病)で多く見られることも見出した。
今回、独自に作製したマウスの変異ES細胞を用いてAhedが造血に不可欠な新規遺伝子であることを解明した。「研究成果により、造血幹細胞が骨髄で自己複製し、すべての血液細胞を作る仕組みや、それらの変異により血液細胞ががん化するメカニズムが明らかになることが期待され、その成果は、Ahedの分子機構を介した新たな血液がん治療の開発につながる」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学大学院医学系研究科・医学部 主要研究成果