IMTが横隔膜の可動性改善にも有効かは不明だった
近畿大学は6月25日、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)患者を対象に、この疾患の治療に用いられる吸気筋トレーニング(IMT)の効果を検証した結果、横隔膜機能を改善させ、全身の持久力向上や歩行時の呼吸困難感に対して有効に働くことを証明したと発表した。この研究は、同大病院リハビリテーション部理学療法士の白石匡氏、同大医学部リハビリテーション医学教室の東本有司臨床教授、同内科学教室(呼吸器・アレルギー内科部門)の松本久子主任教授らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「ERJ Open Research」にオンライン掲載されている。
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COPDは、主に喫煙などが原因で気道が狭くなり、肺の弾力性が低下する病気である。罹患すると、特に運動時に息をしっかり吐き出せず、肺に空気が溜まることで肺が過度に膨らんで、呼吸を助ける筋肉である横隔膜が正常に機能しなくなり、呼吸困難や息切れの原因となる。国内患者数は年々増加傾向にあり、最新の統計によると、日本における潜在的な患者は約500万人と推定されている。研究グループはこれまでに、超音波画像診断装置を用いた横隔膜移動距離の測定が、COPD患者の全身の持久力(運動耐容能)等の予測に有用であることを報告してきた。
IMTは吸気抵抗負荷法(一方弁で仕切られた筒状の器具で、吸気時のみに抵抗を段階的に負荷する方法)と呼ばれる呼吸筋トレーニングの一種で、COPD患者に対して最大吸気圧、呼吸筋耐久力、漸増負荷圧、運動耐容能、呼吸困難感等の項目で改善が得られるとされている。しかし、吸気の主要な筋肉である横隔膜に対してどのような効果があるかは、これまで明らかになっていなかった。これらを踏まえ、研究グループは、横隔膜機能が低下しているCOPD患者がこのトレーニングを行うことで、横隔膜の可動性等が改善されると仮説を立てて研究を実施した。
12週の在宅治療中心IMT実施患者を、低頻度の外来リハビリを受けた患者と比較
研究グループは、先行研究をもとに、COPDの呼吸困難感と運動耐容能の改善には、横隔膜機能を改善することが重要であり、それを評価する方法として、IMTが有効な手段ではないかと仮説を立てた。その仮説を検証するため、同大病院に通院する病状が安定したCOPD患者29人(IMT群15例と対照群14例)を対象とした非盲検ランダム比較試験を行った。
参加者は、標準化された12週間の呼吸リハビリテーション(PR)プログラムの後、在宅治療を中心としたIMTと理学療法士が監督する低頻度の外来PRセッション(2週に1回)からなる12週間のIMTプログラムを受けた患者群と、対照として、低頻度の外来PRのみを受けた患者群に分かれた。
IMT群で横隔膜移動距離が増加、歩行時の呼吸困難感も軽減
その結果、IMTプログラム実施後、横隔膜移動距離はIMT群で増加した(50.1±7.6mm→60.6±8.0mm、p<0.001)が、対照群では増加がみられなかった(47.4±7.9mm→46.9±8.3mm、p=0.10)(いずれもp<0.01)。また、IMT群では運動耐容能(PeakVO2)や運動中の換気応答(VE/VO2,VE/VCO2)、運動時の1回換気量に改善が見られ、歩行時の呼吸困難感も軽減した。今回の研究は、12週間の在宅治療を中心としたIMTによりCOPD患者の横隔膜の可動性を改善させられることを証明した初めての研究となる。
間質性肺疾患に対するIMTの効果を調査
横隔膜は最も重要な吸気筋であり、IMTの効果を確保するためには横隔膜を十分に動員する必要がある。これまでの研究ではIMTの評価項目として横隔膜の可動性は検討されていなかったが、今回研究グループは、横隔膜移動距離がIMTにより増加することを証明するとともに、横隔膜機能の改善がIMTの重要な評価項目である可能性を示した。
「今後はCOPD患者以外で、横隔膜機能低下が報告されている間質性肺疾患患者に着目してCOPD患者の横隔膜移動距離と換気パラメータの比較を行うとともに、各疾患の特性を明らかにし、本研究と同様にIMTの効果について調査を進めたい」と、研究グループは述べている。
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