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ラブドイド腫瘍・類上皮肉腫、阻害薬1つで2標的抑制の治療法が有望-国がんほか

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2024年07月03日 AM09:30

欠損型遺伝子異常のがんで有望な合成致死治療法、2阻害剤併用には多くの課題

国立がん研究センターは6月26日、ラブドイド腫瘍や類上皮肉腫などに特徴的なSMARCB1欠損型遺伝子異常のあるがんに対して、CBPとp300という2つのタンパク質を新たな治療標的とし、1剤で同時に阻害することが有望であることを発見したと発表した。この研究は、同センターがん治療学研究分野の荻原秀明分野長、佐々木麻里子研究員、住友ファーマ株式会社リサーチディビジョンがん創薬研究ユニットの大坪嗣輝研究員、加藤大輝研究員、村上果林研究員、国立がん研究センター中央病院病理診断科の吉田裕医員、同センター研究所がん治療学研究分野の高瀬翔平研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ラブドイド腫瘍や類上皮肉腫は日本における小児がんやAYA世代(思春期・若年成人)のがんの中でも希少ながんであり、予後の悪いがんである。これらのがんは遺伝子の発現を制御するタンパク質に関与するSMARCB1遺伝子欠損型の異常が原因となっている。

ラブドイド腫瘍や類上皮肉腫のような欠損型遺伝子異常を持つがんには、合成致死性を利用したがん治療法(合成致死治療法)が有望である。合成致死性とは、細胞内に2つの遺伝子がある場合に、片方の遺伝子のみが抑制された場合には細胞は死なないが、2つの遺伝子が両方とも抑制された場合に細胞が死滅する現象である。従来の阻害薬の開発は1つの遺伝子異常に対して1つの標的を1つの阻害薬で治療することが一般的だが、1つの標的を探す研究方法は成熟した状況にあった。そこで、新しい標的を見つける方法として、1つではなく、2つの標的を同時に抑制する方法が考えられる。しかし、別々の標的を阻害する場合、それぞれに阻害剤の使用が必要となる。臨床開発の中で新しい2つの阻害剤による試験を検討する必要があるため、阻害剤併用による試験計画の煩雑性や副作用などの問題が生じやすいことが懸念されている。

パラログ利用した同時抑制法開発、SMARCB1欠損型がん標的としてCBP・p300発見

そこで研究グループは、標的とするタンパク質の構造的な相同性(パラログであること)を利用して2つのタンパク質を1つの阻害剤で同時に抑制する方法「パラログ同時阻害法」を考案した。

今回、SMARCB1欠損型細胞株モデルを構築し、クロマチン制御遺伝子におけるパラログペアの2つの遺伝子を同時に抑制することで、SMARCB1欠損型細胞では致死となるが、SMARCB1正常型細胞では生存に影響がない、すなわち、合成致死性を示すパラログペア遺伝子を探索した。その結果として、ヒストンアセチル化酵素をコードするCBP(CREBBP)とp300(EP300)のパラログペア遺伝子を同定した。SMARCB1欠損型細胞において、CBPあるいはp300を単独で抑制すると、部分的に増殖が抑制されるが、CBPとp300を同時に阻害すると致死性を示すことを発見した。

/p300阻害剤、SMARCB1欠損型類上皮肉腫の既存薬より高い効果示す

既存のCBP/p300阻害剤CP-C27を用いて、阻害剤によるSMARCB1欠損型細胞への有効性を確認するために、薬剤感受性試験を検討した。その結果、SMARCB1欠損型細胞は、SMARCB1正常型細胞に比べて、100倍以上選択性が高い(IC50が低い)ことがわかった。さらに、CBP/p300阻害剤は、SMARCB1欠損型類上皮肉腫の既存薬よりも高い効果を示すことがわかった。

CBP/p300同時阻害によるKREMEN2遺伝子の転写抑制が合成致死性を誘導

SMARCB1は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体として、さまざまな遺伝子の転写を促進したり、抑制したりする働きがある。一方で、CBP/p300は、ヒストンアセチル化酵素であり、さまざまな遺伝子の転写を促進する働きがある。そこで、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時に阻害すると、どのような作用機序で合成致死性になるかを検討した。研究グループは、網羅的遺伝子発現解析を用いて、SMARCB1の欠損によって発現が増加する遺伝子の中で、CBP/p300の阻害によってその発現が抑制される遺伝子を探索した。その結果、KREMEN2遺伝子を同定した。KREMEN2を抑制すると、SMARCB1正常型細胞では増殖抑制は起こらないが、SMARCB1欠損型細胞では増殖抑制が起こる、すなわち、合成致死性を示すことがわかった。また、SMARCB1欠損型細胞におけるCBP/p300同時阻害による細胞死が、KREMEN2遺伝子の発現を補うことで細胞死が回避されることから、KREMEN2は合成致死性の決定因子であることがわかった。

KREMEN2の遺伝子発現制御の分子メカニズムを明らかにするために、CUT&RUN-seqによるクロマチン局在解析やATAC-seqによるクロマチン構造解析などのクロマチン解析手法を用いて検討した。SMARCB1はSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体として、KREMEN2遺伝子座の転写制御領域に局在することで、KREMEN2遺伝子の転写を抑制していた。一方で、SMARCB1が欠損することによって、CBPとp300の両方がKREMEN2遺伝子座の転写制御領域に局在することで、KREMEN2遺伝子の転写が促進されることがわかった。さらに、CBPとp300を同時阻害すると、KREMEN2遺伝子座の転写制御領域における転写因子の局在が抑制されることで、KREMEN2遺伝子の転写が抑制されることがわかった。その結果として、合成致死性が誘導されると考えられた。

KREMEN2抑制によるアポトーシス誘導経路についても判明

これまでの結果から、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時阻害したとき、KREMEN2の発現が抑制されることで、細胞死が誘導されることを明らかにした。そこで、KREMEN2の発現抑制によって、どのような分子メカニズムによって細胞死が誘導されるかを検討した。これまで、KREMEN2は膜タンパク質であり、KREMEN1という別の膜タンパク質と結合することと、KREMEN1タンパク質同士が結合することがわかっていた。また、KREMEN2はアポトーシス抑制タンパク質であり、KREMEN1はアポトーシス促進タンパク質であることもわかっていた。しかし、KREMEN2とKREMEN1の相互作用とアポトーシスの制御機構は明らかになっていなかった。

そこで、タンパク質同士の相互作用(結合)を発光シグナルで定量的に検出する実験手法であるNanoBitシステムを応用してKREMEN1同士の結合を定量的かつ簡便に検出できるアッセイ系を構築した。KREMEN2が増加するとKREMEN1同士の結合を促進することでアポトーシスが抑制されること、KREMEN2が減少(CBP/p300を同時阻害)するとKREMEN1が単量体化することでアポトーシスを促進することを明らかにした。

さらに、SMARCB1欠損型細胞において、CBP/p300を同時阻害したときに、どのような分子経路を経てアポトーシスが誘導されるかを検討するために、CBP/p300の同時阻害およびKREMEN2の抑制で共通して変動する遺伝子とタンパク質について、網羅的遺伝子発現解析に基づいたGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)解析およびリン酸化タンパク質抗体アレイ解析を行った。これらの解析の結果、CBP/p300の同時阻害に伴うKREMEN2の発現抑制によって、IL6-JAK-STAT3経路、TNFα-NFκB経路、PI3K-AKT経路によるアポトーシス抑制が解除された結果として、アポトーシスが誘導されることを明らかにした。

SMARCB1欠損型細胞マウス移植腫瘍モデルでもCBP/p300阻害剤の抗腫瘍効果を確認

細胞株モデルを用いて明らかにしてきた以上の現象について、マウス移植腫瘍モデルにおける生体モデルで検証した。CBP/p300の同時阻害剤の投与によって、SMARCB1正常型細胞由来のマウス移植腫瘍モデルでは、抗腫瘍効果を示さなかった。一方で、SMARCB1欠損型細胞由来のマウス移植腫瘍モデルでは、抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。このとき、SMARCB1欠損型の腫瘍では、KREMEN2の発現抑制とともに、PI3K-AKT経路の抑制、アポトーシスの誘導が、生体モデルでも確認することができた。

他の欠損型遺伝子異常を持つがんの治療法にもつながると期待

今回の研究では、新たに考案したパラログ同時阻害法によって、有望な創薬標的を発見した。この研究では、対象とするパラログペア遺伝子の数を限定して標的探索を行ったが、現在、対象とするパラログペア遺伝子の数を拡大して、大規模に創薬標的を探索できる方法を構築している。「今後、小児がん、AYA世代のがんなどの希少がんだけでなく、治療法が確立されていない難治性がんにおいて、欠損型遺伝子異常を持つがんに有望な治療法の開発につなげていく研究を進めていく」と、研究グループは述べている。

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