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「脳内マリファナ類似物質」が脳発達のタイミングを調整していると判明-鳥取大ほか

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2024年07月03日 AM09:10

脳発達の臨界期のタイミングがどのように決定されているのかは不明だった

鳥取大学は6月25日、内因性カンナビノイドが脳発達のタイミングを調節していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部生命科学科神経科学分野の畠義郎教授、生理学研究所の米田泰輔助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳は出生後に外部環境に適応的に変化し成熟する。視覚の中枢である大脳皮質一次視覚野で見られる眼優位可塑性は、脳の適応的発達の代表的なモデルだ。生後初期の哺乳類の片方の眼を一時的に遮蔽すると、視覚野の神経細胞(ニューロン)がその眼からの情報に反応しにくくなり、弱視になるという現象だ。眼優位可塑性は臨界期と呼ばれる生後発達の一時期に強く発現し、成熟後は見られない。視覚野では臨界期に両眼情報の統合といった重要な機能が発達する。

このような機能の発達には、臨界期が適切なタイミングで始まることが重要だ。臨界期は視覚系だけでなく脳のさまざまな機能発達について存在する。そのため臨界期のタイミングがどのように決定されているかは、脳の成熟機構の理解に必須であり、現在精力的に研究が行われている。

DGLα欠損マウスを用いて、内因性カンナビノイドが視覚野の成熟に関わるか検証

研究グループは今回、内因性カンナビノイドと呼ばれる物質が視覚野の成熟に関わるか否かを調べた。内因性カンナビノイドとは身体の中で作られる、マリファナに類似した作用と構造を持ついくつかの分子の総称だ。同研究では、脳での主要なものと考えられている「2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)」に注目した。

内因性カンナビノイドは、ニューロンの間のシナプス伝達の強さを調節する。シナプスでは、一方のニューロンの神経終末から神経伝達物質が放出され、もう一方のニューロンの受容体を活性化させることで情報が伝わる。内因性カンナビノイドはこれとは逆方向に、シナプス伝達の受け手側のニューロンで作られ、送り手ニューロンの神経終末に存在するカンナビノイド受容体(脳ではCB1受容体)に働いて神経伝達物質の放出を抑えることで、シナプス伝達を調節する。この受容体にマリファナ成分も作用する。同研究では、2-AGの合成酵素ジアシルグリセロールリパーゼα()を欠損し、2-AGが働かないマウスを用いて、その視覚野の成熟を調べた。

DGLα欠損マウスは臨界期のタイミングが早く、大脳皮質の層の発達協調が崩れていた

さまざまな生後齢の正常マウスの片眼を遮蔽してその効果を調べると、臨界期になったマウスでのみ眼優位可塑性が見られるが、DGLα欠損マウスでは正常な臨界期では眼優位可塑性は観察されず、それよりも若い時期に観察された。大脳皮質は6つの層が重なった構造をしているが、DGLα欠損マウスの早期の眼優位可塑性は6層のうち、2/3層・4層でのみ観察された。したがって、DGLα欠損マウスでは臨界期が本来のタイミングよりも早く始まっており、大脳皮質の6つの層の発達協調が崩れていることが判明した。

DGLα欠損マウスは、抑制性シナプスの発達が正常マウスよりも早いことが判明

臨界期の開始には抑制性神経回路の発達が必要であることがわかっている。また、カンナビノイド受容体は抑制性シナプス終末に多く存在している。これらのことから、DGLα欠損マウスでは抑制性神経回路の発達が早まることで、臨界期が早くに始まる可能性が考えられる。

そこで視覚野を切り出したスライス標本で微小抑制性シナプス電流(mIPSC)を計測したところ、正常な臨界期前の2/3層、4層で、mIPSCの発生頻度が正常マウスより増加していた。つまりDGLα欠損マウスは抑制性シナプスの発達が正常マウスよりも早いことがわかった。

大麻使用に関する議論の一助となることに期待

今回の研究により、臨界期のタイミング制御に内因性カンナビノイドが関わることが初めて明らかになった。今後、脳内の多様な細胞の中で、どの種類の細胞の内因性カンナビノイド系が重要なのかを明らかにすることは、臨界期のメカニズム解明につながり、脳の発達不全の理解につながると期待できる。一方、同研究では眼優位可塑性の臨界期を調べたが、他の感覚や運動、さまざまな精神機能の発達にも臨界期があると考えられている。内因性カンナビノイドは大脳全体に広く分布するため、他の機能の発達にも関与する可能性が考えられる。

「臨界期のメカニズムの解明は脳の発達不全の理解や治療法開発に必須であり、本成果はこれらに寄与する。また、この調節系に大麻物質が作用することから、大麻の使用が脳の発達に影響する可能性を示すもので、大麻使用に関する社会の議論の一助となるもの期待される」と、研究グループは述べている。

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