環境や健康への利点はあるが普及は限定的、その背景を3か国で調査
立命館大学は6月25日、日本、インドネシア、フランスにおける生理用品の消費者の意思決定プロセスを分析し、月経カップを推進するためには、環境や健康に関する情報ではなく、費用対効果に関する情報が重要な影響を与えることが明らかになったと発表した。この研究は、同大政策科学部の上原拓郎教授、Sitadhira Prima Citta氏、Université de Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines(フランス)の Mateo Cordier准教授、上智大学の柘植隆宏教授、総合地球環境学研究所の浅利美鈴教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Frontiers in Sustainability」に掲載されている。
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プラスチック汚染は、人間の健康と生態系の両方に危険をもたらす世界的な社会課題である。使い捨てプラスチックの持続可能な代替品に対する関心は高まっているものの、いまだ十分ではない。不織布等のプラスチックを原材料とする生理用品も例外ではない。使い捨て生理用品の大量廃棄が引き起こす環境問題に対応するため、持続可能な月経用品の実現を目指して月経カップが推進されている。しかし、月経カップは環境や健康への利点があるにもかかわらず、その普及は限定的だ。月経衛生管理に対する認識や態度に関する先行研究は数多く存在しているが、持続可能な生理用品のプロモーション戦略の立案に関する研究は十分でないと考えられる。そこで研究グループは、持続可能な選択肢としての月経カップを促進する効果的な戦略を提案ため、異なる社会文化的文脈における多様な特徴を持つ消費者の選好を調査した。
3か国すべてで費用対効果を重視、無料で提供されれば採用する強い意向
研究グループは、離散選択実験(DCE)を使用し、情報介入の影響を評価するために、各国の回答者に生理用品に関連する情報を与えたグループと与えていないグループに分けてオンラインアンケートを実施した。その結果、月経カップの使用を促進するうえで、月経カップの使用1回当たりに換算した費用に関する情報が、生理用品の健康や環境に関する情報と比較して、すべての国で決定的に重要であることが判明した。また、月経カップを選択する際の障害として、月経に対する認識、新しい生理用品に対する親しみ度合い、環境に配慮した消費の重要視なども心理的要因に影響していることが明らかになった。
これまでの研究では環境に関する側面に注目していたが、今回の研究成果により、健康および環境情報は影響が見られず、費用に関する情報が共通の懸念事項であることが明らかになった。3か国間の消費者の違いとしては、市場ごとにプロモーション戦略が異なることです。また、月経カップを無料で提供することで、全ての国において月経カップを採用する強い意向が示された。これは、社会文化的背景を問わず、一般市民への普及を促進できる可能性を示している。つまり、生理の貧困を緩和することは持続可能な社会に貢献することにつながる。
持続可能な生理用品の選択、効果的な促進に期待
生理用品が環境に与える影響を最小限に抑え、生理の貧困の緩和に取り組むことは、地球のキャパシティの範囲内で人類が持続可能な生活を送ることに貢献するものだ。生理用品の費用対効果を強調することで、今回の研究は、異なる社会文化的背景をもつ多様な消費者に合わせた政策的インセンティブとプロモーション戦略を立案するための貴重な洞察を提供している。「研究成果の活用が、持続可能な生理用品の選択を効果的に促し、プラスチック廃棄物による環境汚染と自然資源の消費を抑制につながる。さらには生理の貧困の緩和にも貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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