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子宮頸がん、尿に含まれる極微量のウイルスタンパク質検出法を開発-早大ほか

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2024年07月02日 AM09:00

尿中HPVタンパク質、極めて微量で検出は困難だった

早稲田大学は6月25日、開発した超高感度タンパク質測定法「TN-cyclon(TM)」により、子宮頸がんの前段階の患者の尿から、最大の病因となるヒトパピローマウイルス()のタンパク質を検出できることを示したと発表した。この研究は、同大教育・総合科学学術院の伊藤悦朗教授、金沢医科大学の笹川寿之教授、ドイツがん研究センターのMartin Müller教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Microorganisms」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本では年間に約1.1万人が子宮頸がんにかかり、約2,900人が死亡している。子宮頸がんの最大病因はHPVの感染で、すなわちこのがんは性感染症であり感染機会が多いのは性体験を始めた直後となっている。子宮頸がんに移行する前の状態(前がん病変)では、多くの場合は自然治癒するため、感染した自覚がない。また、子宮頸がんの前がん状態は検診とワクチンとで予防できることがわかっているものの、20~30代の女性にとって検診は、恥ずかしい・時間がない・病院に行くのが大変・性行為が監視されているようだ、といったさまざまな理由でハードルが高く、テレビなどを通した検診の啓蒙があっても、なかなか検診受診率の向上が見られていないのが現状である。

、または前がん状態の患者の子宮頸部細胞診では、DNAウイルスであるHPVのDNAまたはmRNAが含まれることはわかっていた。DNAやmRNAなどの核酸はPCR法の普及により簡単に高感度で測定できる。しかし、実際にウイルスが存在してもがんの悪化のために働くのはそれがタンパク質に翻訳されてからであるため、タンパク質の量的変化を調べることが望まれていた。さらに最近では、患者の尿中にHPV mRNAが混入していることも注目され始めているが、尿中のHPVタンパク質は極めて微量であり、ほぼその検出は不可能だった。

極微量のタンパク質検出法を開発、従来法と比較し約100倍の高感度

研究グループは、これまでに極微量のタンパク質を超高感度で簡易に測定する方法である、超高感度タンパク質測定法「TN-cyclon」を開発してきた。これは、従来のサンドイッチELISAと酵素サイクリング法とを組み合わせたもので、標的タンパク質を検出するシグナルを増幅し、極微量の標的タンパク質を検出・定量するものである。今回、このTN-cyclonを患者尿中タンパク質の検出に適用した。

尿中に存在する標的HPVタンパク質は極めて微量と予想されたことから、感染後がん化するリスクの高いHPV16型のE7タンパク質に標的を絞った。ちなみにHPVのE7タンパク質はHPV DNAの複製を可能にし、がんの悪化に関与している。

その結果、市販のELISAキットと比較して、約100倍の高感度である0.13pg/mLという極めて高感度での検出が可能となった。つまり、これまでに例を見ない超高感度タンパク質測定系を確立し、E7タンパク質を見逃さないレベルで測定が可能となった。

細胞診で前がん状態の患者、尿タンパク質検出とHPVのDNA検査実施

実際には、がん化する前の前がん状態で、HPVに感染している患者を発見することが重要である。そこで、細胞診の情報を元に前がん状態であると判断された患者45人から尿を収集した。これらの患者は、さらにDNA検査を行い、HPVの型を決めた。この型には高リスク型のHPV16が含まれており、今回はHPV16とその関連型に特に着目した。

細胞の異形・DNA型・E7タンパク質検出の3者は相関しないと判明

前がん状態の患者尿からのE7タンパク質検出を試みたところ、興味深い結果として、細胞診での細胞の形の異常と、検出されたDNA型、さらにTN-cyclonによるE7タンパク質の検出の3者には、きれいな相関があるわけではないことがわかった。これは、HPVが存在するかしないか(つまりDNAの有無)と、子宮頸部の細胞に異形が現れるか現れないか、さらには、HPVのタンパク質の存在の有無とが、必ずしも一致しないということである。

タンパク質はウイルスそのものががんを悪化させるために必要なため、タンパク質の存在はウイルスのいわば活性度を表している。それが発見できないということは、ウイルスが活動を休止している、すなわち潜伏感染などの発がん活性の変動を見ていると考えられる。これはとても重要で、ウイルスは存在そのものだけでなく、同時にその働きを注視すべきであり、タンパク質の測定がそれを表していると言える。

前がん初期は80%に確認される尿検体のE7、がん状態近づくと減少

研究グループの結果では、E7タンパク質の存在を、HPV16陽性で前がん状態が初期のCIN1患者の尿検体では80%で、CIN2患者の尿検体では71%で、およびCIN3患者の尿検体では38%で、確認できた。CINが上がる、すなわちがん状態に近くなると、なぜE7タンパク質が減るのかは、今後の研究課題となっている。

尿による検診方法の開発により、子宮頸がん検診のハードル下がることを期待

今回の検出方法の開発によって、子宮頸がんの前がん段階での診断の可能性が示された。将来的には、自身で尿を採取し、医療機関や検査センターに送付すれば、検診を受けられる道も拓かれる可能性がある。女性にとって、病院に行って医師に診てもらう検診よりも、自身で尿を採取し提出することのほうが抵抗は少なく、このように検診のハードルが下がれば、子宮頸がん撲滅の糸口となることが期待される。

なぜHPVに感染した細胞が尿に含まれるのかは、まだ多くの謎が残されている。研究グループは、膣口から出たおりものが尿に混入すると考えており、そのため、ある確率で尿からHPVタンパク質が検出されない検体もあると考えられる。

「今回の研究では、HPV16型のE7タンパク質のみの測定を行ったが、今後は、子宮頸がんの悪化に影響を及ぼす、E6タンパク質の測定も試みる予定である」と、研究グループは述べている。

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