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「相手が自分をわかってくれている」という心理で、差別が減少する可能性-阪大

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2024年07月02日 AM10:05

「わかってくれる」と感じることは、良い集団間関係につながるのか?

大阪大学は6月24日、ヒトが「相手が自分のことをわかってくれる」と思った場合に、その相手への見方やイメージがどのように変化するのか、またその変化の心理的要因を心理学実験により解明したと発表した。この研究は、同大国際教育交流センターの井奥智大特任助教(常勤)、同・大学院人間科学研究科の綿村英一郎准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

友人、上司、パートナーなど、相手が「自分のことをわかってくれる」と感じるのはヒトにとって最も大きな喜びの一つ言われている。最近の研究により、「わかってくれる」という心理は行動にも影響を与え、国家や世代間等の特定のグループ、集団同士の関係においても重要なファクターとなることが明らかにされている。例えば、「高齢者は若者のことを理解してくれる、わかってくれる」と思う若者は、高齢者と積極的に関わろうとする傾向がある。これは、「わかってくれる」という心理が、集団間関係に良い影響をもたらしたと考えられる。また、逆のケースもある。「イングランド人はスコットランドの文化を理解していない」と考えていたスコットランド人は、スコットランドのイギリスからの独立を支持していたという先行研究がある。これは「わかってくれる(わかってくれない)」という心理が排他的に働いた例だと言える。

このような先行研究はありつつも、「わかってくれる」と思うことが良い集団間関係につながるプロセス、メカニズムについて、詳細に解明した研究は存在しなかった。そこで研究グループは今回、日本人と中国人の集団関係を題材に同プロセスの解明に取り組んだ。これまで国勢調査により、日本人が中国人に対してあまり良いイメージを持っていない傾向があることが示されている。研究グループは、同研究がそのようなイメージを払拭する糸口ともなり得るとも考えた。

中国人が日本を理解していると感じた場合は、中国人とより積極的に関わろうとする傾向

「相手が自分のことをわかってくれる」という心理が、なぜ集団間の関係に良い影響をもたらすのかについて、これまでの知見をふまえると、(1)相手グループが自分のグループを肯定的に捉えてくれると思うから、(2)相手グループに親しみを感じるから、(3)相手グループに対してあまり偏見をもたなくなるからという3つの仮説が考えられた。

この仮説検証のため、研究グループは日本人476人を対象に「中国人は日本人のことをわかってくれる」と思った場合に、日本人が中国人に対して抱くイメージがどう変化するのかを調べた。具体的には、新聞記事などを参考に、「中国人が日本のことを理解している/誤解している」という2パターンの内容の記事を作成し、そのどちらかの記事を参加者に読んでもらった。その後、「中国人とより関わりたいと思うか?」など、中国人について抱くイメージについて詳細に質問した。

実験の結果、「中国人が日本のことを理解している」という記事を読んだ場合は「誤解している」という記事を読んだ場合と比べ、被験者は中国人とより積極的に関わろうとする傾向がみられた。

わかってくれた相手に対し、自分もわかろうとする「返報性」が働いた可能性

さらに、その心の働きの要因は、「中国人が日本のことを肯定してくれる」と感じることで、「中国人に対する偏見が減るため」であり、仮説(1)や(2)よりも、(3)の可能性が相対的に高いことを解明した。この結果は「わかってくれた相手に対して、自分もわかろうとする」という返報性が強く働いたのではないかと考えられる。

「わかってくれる」と思う相手への見方がどう変わるのかは、さらに研究が必要

しかし一方で、「相手が自分のことをわかってくれる」と思うことで、相手が「肯定的に捉えてくれる」と感じ、その結果として偏見が減り、相手と関わりたくなったという可能性もある。そのため、「わかってくれる」と思うと相手への見方がどのように変わるのかを理解するには、さらに研究が必要だ。

外国人が日本をわかってくれているという心理が「」を減少させることに期待

外国人に対する差別問題はメディアで頻繁に取り上げられている。同研究結果をこの文脈で捉え直すと、「外国人が日本のことをわかってくれている」という心理があれば、日本人の外国人に対する偏見は減少し、外国人に対しより関わりたいなど心理的によいインパクトを与えることができる」ということになる。具体的には、日本語を学び、日本の文化や社会を理解しようとする外国人がいることを伝えていくことで、そのような差別を減少できる可能性がある。そのような取り組みについて、例えば、大阪大学国際教育交流センターでは「J-ShIP」など、日本語学習を目的とした留学生日本語プログラムを実施している。

「このような取り組みがメディアなどを通じて社会に拡散していくことで、長期的には差別問題を減らすことにつながると期待される」と、研究グループは述べている。

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