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子どもの近視、屋外活動の時間増が発症予防につながる可能性は高いと判明-京大

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2024年07月01日 AM09:00

効果ありと複数報告はあったが、システマティックレビューは存在せず

京都大学は6月21日、近視の進行抑制や発症抑制を目的として子どもの屋外活動時間を増やす介入を行っているランダム化比較試験を網羅的に集めて、それらの結果を統合して解釈するシステマティックレビューを行い、その結果、屋外活動の時間を増やすことは、子供の近視の進行予防になるかどうかは不明確なものの、子どもの近視発症予防につながる可能性は高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科眼科学教室の木戸愛客員研究員、三宅正裕特定講師、同大医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)研究室の渡辺範雄客員研究員の研究グループによるもの。研究成果は「Cochrane Database of Systematic Review」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近視の増加が世界的な問題となっている。近視は、近くのものははっきりと見える一方で遠くのものがぼやけて見える屈折異常で、適切な眼鏡やコンタクトレンズ等で屈折矯正を行わないと日常生活に不便が生じる。それのみならず、近視は緑内障や網膜剥離等の他の眼科疾患の危険因子となる事が知られている。現在、東アジアを中心として世界的に近視が増加していることから、近視の発症を減らしたり進行を遅らせることが喫緊の課題となっている。

近視進行を抑制する治療として研究がよく行われているのはアトロピン点眼治療やオルソケラトロジーといった療法だ。一方、このような医学的な介入ではなく環境を変化させる介入として、屋外活動時間に注目した研究も数多く行われており、複数のランダム化比較試験も行われている。これらの研究からは、屋外活動時間を増加させることによって近視進行を抑制する効果や近視発症を予防する効果があったと報告されている。しかし、このようなランダム化比較試験を公平な視点で俯瞰して統合的に解釈するための、適切な手法で行われたシステマティックレビューはこれまで存在しなかった。このため、屋外活動の時間を増やすことが近視に抑制的な効果を持つのかについて、十分な結論が出ているとはいえない状態である。

研究のデザインには、コホート研究やケースコントロール研究などの観察研究、介入研究などさまざまなデザインがあるが、それぞれの研究が生み出すエビデンスの信頼性はデザインによって差があることが知られている。単体の研究において最も信頼性が高いと考えられているのがランダム化比較試験という研究手法である、このランダム化比較試験でさえも、研究分野全体で俯瞰した場合には、「期待する結果が得られた場合は論文として報告されるものの、期待する結果が得られなかった場合は論文として報告されない」というバイアス(出版バイアス)の影響を受け、効果があったという報告ばかりが注目されることで真の効果が歪められてしまう可能性を孕んでいる。システマティックレビューは、結果の善し悪しや論文報告の有無を問わず、計画された全てのランダム化比較試験を網羅的に集め、すべての結果を統合して解釈するという研究手法で、最も信頼できるエビデンスと考えられている。

屋外活動時間を増やす介入をした5試験をシステマティックレビュー、近視発症率は介入群で低い

今回研究グループは、子どもの屋外活動の時間を増やすことで近視の発症や進行を抑制することができるのかを明らかにするために、システマティックレビューの国際的なネットワークであるコクランの協力のもと、厳格な手法に則ってシステマティックレビューを行った。近視の進行抑制や発症抑制を目的として子どもの屋外活動時間を増やす介入を行っているランダム化比較試験を、2022年6月の時点で網羅的に検索し、プロトコルで事前に設定された基準を満たす全ての研究を同定した上で、それらの結果を集約し、解析を行った。

対象となったランダム化比較試験は5つあり、そのうち4つは学校単位でランダム化を行い、屋外活動時間を増やす介入を行う学校と行わない学校に割付けする、クラスターランダム化比較試験だった。研究対象は小学生で、研究に参加した児童数の合計は1万733人だった。それらの研究結果を統合したところ、屋外活動の時間を増やしても近視の進行については一貫した結果が得られず、近視の進行抑制効果に関しては現時点では結論が出なかった。

しかし、屋外活動の時間を増やすことで、介入群の近視発症率は対象群の近視発症率と比べて1年後では2.4%(7.1% vs 9.5%)、2年後では4.2%(22.5% vs 26.7%)、3年後では9.3%(30.5% vs 39.8%)低く、近視の発症予防効果は期待できることが示された。

システマティックレビューを改めて実施し、どの介入が有効かなどを明らかに

この結果は、屋外活動を増やすことが近視の発症と進行を抑制するのかを明らかにした、最もエビデンスレベルが高い結果といえる。近視の進行抑制については、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーなど種々の治療が有効であることが示されてきたが、近視の発症予防に関する報告は限られており、近視の発症予防効果がシステマティックレビューによって示されたのは今回が初めてだ。

研究で対象となったランダム化比較試験で行われた、屋外活動時間を増やすための介入方法は、授業に屋外活動を取り入れるもの、授業の間の休み時間に屋外で過ごすことを習慣づけるもの、屋外活動を促す動機づけとなるようなツールを配布するものなどさまざまだった。日本においても取り入れることが可能なプログラムもあり、日本におけるエビデンスの創出も期待される。

現在進行中のために研究対象とならなかった試験も複数あり、また、屋外活動に関する試験は今後も増加すると考えられる。このため、今後期間をおいて改めてシステマティックレビューを実施することで、近視の進行抑制に関する更なる知見や、どのような介入が有効かといった詳細な知見が得られる可能性がある。「研究結果が、世界的な健康問題である近視増加を食い止めるための、ひとつの重要なエビデンスとして生かされることを期待している」と、研究グループは述べている。

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