TCGA分類でGS群に該当するRhoGAP胃がんに着目
がん研究会は6月19日、878例という大規模な早期胃がん症例に対して、FISH法を用いたRho GTPase activating protein (RhoGAP)融合遺伝子陽性の胃がんの検索を行い、その臨床病理学的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、がん研究所病理部の河内洋診断病理学担当部長を中心とする研究グループによるもの。研究成果は「Gastric Cancer」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
胃がんの病理分類では、日本では分化型と未分化型の2大別分類が、海外ではIntestinal typeとDiffuse typeの2大別分類が知られている。胃がん取扱い規約分類やWHO分類では、管状腺がん乳頭腺がん等の組織型に、高分化・中分化・低分化といった分化度を加味した分類が用いられている。一方、近年の分子生物学的研究の成果から、胃がんをEBV-CIMP(EBV)、MSI-hypermutated(MSI)、Genomically stable(GS)、Chromosomal instability(CIN)の4型に分類するMolecular phenotypeの概念(TCGA分類)が提唱された。この概念と病理分類にはある程度の相関は確認されているが、いまだ十分とは言い難く、また臨床応用が課題となっていた。
TCGA分類でGS群に該当するCLDN18::ARHGAP融合遺伝子は細胞形態制御等に関わるRhoシグナル伝達経路における、Rho GTPase activating protein(RhoGAP)に関する異常に属することからRhoGAP胃がんと呼ばれ、近年注目されている。そこでRhoGAP胃がんに注目し、早期胃がんにおけるRhoGAP胃がんの特徴を明らかにするための研究を行った。
粘膜下層浸潤がん878例を対象に、FISH法を用いてRhoGAP融合遺伝子を解析
研究では、がん研究会有明病院で外科的切除が施行された粘膜下層浸潤がんの連続878例に対し組織アレイを作製し、FISH法を用いてRhoGAP融合遺伝子を解析した。その結果、RhoGAP融合遺伝子は57例(6.5%)に認められた。融合遺伝子のパターンでは、CLDN18::ARHGAP26が64.9%と最も多く、他にCLDN18::ARHGAP6(12.3%)、CLDN18::ARHGAP42(3.5%)、CTNND1::ARHGAP26(1.8%)が検出された。リンパ節転移に対する多変量解析では、RhoGAP融合遺伝子陽性、リンパ管侵襲、腫瘍径>2cm、進行型の肉眼型、静脈侵襲、中下部の腫瘍占居部位が独立したリスク因子として示された。特に、RhoGAP融合遺伝子はリンパ節転移に対するオッズ比が最も高く(3.92)、95%CIは2.12–7.27だった(p<0.001)。
若年女性に有意に多く、リンパ節転移の頻度は高いが、静脈侵襲の割合は低い
また、RhoGAP胃がんはその他の胃がんと比較して、若年女性に有意に多く、リンパ管侵襲(56.1%)およびリンパ節転移(49.1%)の頻度が高く、静脈侵襲の割合が低い(7.0%)ことが示された(p<0.001)。
特異度は低いが高い感度でMTMC組織学的特徴から検出可能
病理組織学的には、偽索状の相互連結を伴った微小腺管構造と、さまざまな細胞質粘液量を持つ低分化腺がん細胞の集簇とが混在する組織像、すなわちmicrotubular-mucocellular(MTMC)組織像が、RhoGAP胃がんの93.0%(57例中53例)の粘膜内領域で認められた。MTMC組織像はRhoGAP融合に対して高い感度(93.0%)および陰性的中率(99.4%)を示したが、陽性的中率は低い結果だった(34.9%)。
粘膜内がんにおけるRhoGAP胃がんの特徴を今後明らかに
現在、早期胃がんはその深達度、組織型、潰瘍の有無によって、内視鏡治療と外科的手術に治療方針が分かれている。今回、RhoGAP胃がんは早期胃がんにおいても高悪性度で高いリンパ節転移率を有することが明らかになった。また、特異度は低いものの高い感度でMTMCという組織学的特徴からRhoGAP胃がんを検出できることも示された。「今後は、粘膜内がんにおけるRhoGAP胃がんの特徴も明らかにした上で、特徴的な組織像からFISH法による検索が必要ながんを拾い上げ、RhoGAP胃がんの効率的な診断につながることが期待される。さらに、早期RhoGAP胃がんの診断により、早期胃がんの新たな治療方針決定アルゴリズムの確立、胃がん診療の発展が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・がん研究会 プレスリリース